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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ <八>



手当を終えた牛鬼の見舞いを終えたリクオと共に山を下りようとしたが、リクオの格好が着物のままなのに気づいた。このまま山に下りると清継達に怪しまれる。
 服はどうしたんだと聞くと、なんでも妖怪に変化したあと服も変化したそうだ。説明し終えると服は主の意志を汲み取ったように元に戻った。
 階段を下りる途中に、リクオは瑞樹に妖怪である間のことを覚えていたことを話した。聞き終えて「そうか」と呟くだけで瑞樹の反応は薄かった。
 この階段で顔を会わせた時、薄々そんな予感はしていた。それに例え記憶が繋がっていなかったとしても、人間でも妖怪でも、リクオの行動には繋がるモノがあったことを知っていたから驚きも少ないのだろう。
 瑞樹の言い付けを守って、明るくなってから山荘に戻ったらしくカナとつららには会わなかった。
「カナちゃん達大丈夫かな?」
「山の妖怪のほとんどは山荘の方に向かっていたし。山荘に集まった奴らも花開院や、鴉天狗達が片付けてくれてるだろ」
「時々思うんだけど、どうして瑞樹さんって離れた場所でもそこの出来事をよくわかるの?」
「単なる手元にある情報をまとめた結果だ」
 こうなることを見越して瑞樹はゆらを山荘に置いてきたのか。
 彼女はなんでもわかっている。おそらく、牛鬼がやったことも全て知っているんじゃないだろうか。
 全て見通すことの出来る峠に立つ彼女もとに、自分はまだ追いつけていない。
「あ、リクオ君! 瑞樹さん!」
「リクオくーん!!」
 つららはもう怪我はすっかり良いようだ。元気に手を振っている。
 巻と鳥居は涙目に喚いている。妖怪に襲われたのがよほど怖かったらしい。
 とりあえず、ひどい怪我をしている者はいないようだ。
 清継と島の姿が見えない。
「……やっぱり僕が迎えに行った方が」
 森の中で仕方なく気絶させて放置してきてしまったのをリクオは気にしていた。
 道の先から人影が近付いて来るのを見つけて、瑞樹は「その必要はなさそうだ」と言う。
 彼らの姿が目に入った途端、巻と鳥居の凄まじい暴言の嵐が巻き起こった。二人の声がでか過ぎて言葉が言葉でなくただの雑音になり、清継を責めるが、当の本人には全く意味が通じておらず、激しい出迎えにむしろ喜びの表情を浮かべてさえいた。
 バイクの音が聞こえたかと思うと、そこには青田坊、否、今は倉田が率いる暴走族、血畏夢・百鬼夜行のメンバーが勢揃い。どうやら彼らが山で見つけた清継達を送り届けたらしい。バイクの走る道など当然ない山の中をあの集団で走り回ったとは随分と無茶なことする。
 瑞樹とリクオ、つららが呆れている一方で、他のメンバーには倉田暴走族族長説は事実であったのかと知る。
 全員が揃ったのを認めたところで、さて、と山荘に向かう。
「あれ瑞樹さんどこに行くの?」
「風呂に入ってくる」
「え!? でも風呂は妖怪にメチャクチャにされちゃってますよ!」
 鳥居が慌てて止めると清継が「なんと!」と叫んだ。
「妖怪だって!? そんな! 妖怪を探しに山荘を出たのに、まさか妖怪の方からやって来ていたなんて! ああ僕のバカ! そして君たちがうらめしー!!」
「ふざけんなよテメッ! ゆらがいたからどうにかなったものの! 怖かったんだからな!!」
 と言って巻が胸倉を掴んで思いっきり揺さぶる。まったく懲りない男である清継。
「……さっきチラッと見ただけだが、壁が半分壊れただけみたいだし、シャワーも使えるだろ」
「いや、壁が壊れてるだけでもダメだと思うんですけど」
 自慢の露天風呂だ。壁が壊れていれば、外から覗かれ放題。カナの言う通り、そんな風呂は通常はダメだろ。女なら尚更色々と危険だし。
「心配しなくても、ここに……人の風呂を覗こうなんていう命知らずはいないだろ?」
 言われた瞬間、その場にいた全員の男は自分にのしかかる正体不明の重圧を感じた。それはまちがいなく彼女から発せられ、彼女の目を見た瞬間、全員は察した。
 万が一にでも覗いたりしたら、間違いなく殺<や>られる。


◆ ◇ ◆


 瑞樹が一風呂浴びている間に他はせっせと荷造りをすませ、瑞樹が出ると全員でさっさと山を下りた。帰りの新幹線の中では全員がぐっすりと眠りについた。山荘ではまったく休む暇がなかったからな。
 帰りは行きと席が違い、瑞樹の隣にはリクオが座っていた。みんなと同じように完全に眠りについていて、体が傾いたかと思うと瑞樹の肩に寄り掛かってき た。静かな寝息が首筋にかかり少しくすぐったい。目の前ではつららとカナが寄り添い合って寝ていた。つららの体温にあてられてか、カナは眉間に皺を寄せう んうんと唸る。
 本を閉じて窓辺に置く。一睡していないのは瑞樹も同じはずなのに眠気はまったく感じない。もともと徹夜に慣れてる体だからだろう。片側に直に体温を感じながら、窓の外を遠く見つめていた。
 捩眼山の姿はない。次のトンネルをくぐれば瓦屋根が並ぶ景色は高いビルの建ち並ぶ都会へと姿を変えるだろう。
 頭の中で帰ってからの予定を組み立てる。
 まずは、休暇中に溜まった仕事を片付けて。まあでもそんな大してないだろうが。そのあと整理に報告……、実行は訪れた時にでもやればいいか。
 急に窓の外が真っ暗になった。トンネルに入ったのだ。窓が一面真っ黒になると、急に車内の電気の存在を思い出す。耳鳴りのような感覚に鬱陶しさを感じながら、腰を深め、肩からずれた頭を支え直す。
 この温もりを失わなくてよかった。
 あいかわらず眠気は瑞樹だけを避けているようで、意味もなく瑞樹は瞼を閉じた。


◆ ◇ ◆


 それから二日後。牛鬼は牛頭丸と馬頭丸を引き連れ、事後報告と謝罪のために奴良組を訪れていた。
 ことが終わったあと、昼のリクオと話す機会を得られた。実際に話して意外だったのは昼のリクオは夜のことを覚えていたということだ。いったいいつからだったのかわかないが、昼の彼が自分を人間だと言い張るから起こした謀反だというのに、思わず笑いが込み上げてくる。
 なにはともあれ。今回を機に、昼のリクオは次期総大将としての自覚と決意を示した。これでいいのだ。色々と思わぬ方向に事は転がりまくったが、牛鬼の思いは良き方向に応えられた。
 馬頭丸は女の鴉天狗にたっぷりとお仕置きとやらをされたらしく、リクオと実際に戦った牛頭丸よりもヒドい怪我を負っていた。しばらくは山のカラスの声を聞くたびに怯えた反応を示すくらいだ。
 三人が総大将の部屋を訪れるとそこには先客がいた。
「これは、有沢殿」
 ぬらりひょんと向かい合わせに座っていた瑞樹はどうやら牛鬼を待っていたらしく、一度ぬらりひょんと目を合わせ、ぬらりひょんが頷くと、少し話があると牛鬼に言った。少し戸惑ったが、総大将に促されたので牛鬼は頷いた。
 廊下を出た瑞樹のあとに続く。牛頭丸達は直接は会ったことなかったので、牛鬼の後ろに控えながら前を歩く瑞樹を興味深く観察していた。
「……怪我の具合はどうだ」
 唐突に瑞樹が訊ねた。人間の分際で偉そうな話し方に牛頭丸がムッと顔をしかめる。
「だいぶ治った」
「そうか」
 それ以上の会話は続かない。そもそも怪我の具合を訊ねるほど親しいわけでもなく、互いに存在だけ知っているような関係。だから自分に用があると聞いて、牛鬼は驚いたのだ。一体自分を連れてどこに向かっているのかと思ったら、見えてきたのは敷地内の道場の屋根。
 道場はいつでも解放されているのでいつでも誰でも入ることはできる。牛鬼も時々利用している。
 瑞樹は壁に掛けられている木刀の方に真っ直ぐと向かうと、木刀を二本手に取って、一本を牛鬼に投げ渡した。
 思わず受け取ってしまったが、意図がわからず戸惑う。
「一応、怪我人だから真剣はなしだ」
「なにを……」
「私と手合わせをしてもらう」
 そう言うと、牛頭丸が嘲笑った。
「人間が何言ってんだ。牛鬼様に適うわけないだろ」
「牛鬼」
 瑞樹の目は真っ直ぐと牛鬼の方を向いており、牛頭丸と馬頭丸の存在を完全に無視していた。
 無視されて怒って刀を抜きそうな牛頭丸を馬頭丸が必死で宥める。
 どういう意図があるのかわからないが、拒否は許さないという表情をしている。
「いいだろう」
 一度剣を交えれば、いいことだ。完治していないとはいえ、たかが人間の女一人、と牛鬼は心のどこかで相手の実力を下に見ていた。
「それじゃ、いくぞ」
 二人が剣を構える。
 相手のスキを狙って一発勝負を決めるつもりだった。
 しかし目の前にいるのに完全、気配も隙も消している。焦ってこちらがさきに仕掛ければ、確実に返り討ち。思えばこの女は気配を絶つのに長けていた。そこ にいるのに、わからない。まるで、彼の敬愛する総大将のような。そんなはずはない。人間が畏れなど使えるはずがない。簡単に攻めて来られないのは、向こう も同じはずだ。
「…………」
 瑞樹は呼吸を止めた。
 来るか。
 手の力を強めて牛鬼は瑞樹の些細な動作一つ見逃さぬよう集中する。
「……ッな!? ゴホッ」
「……ぎゅ、牛鬼様っ!?」
 突然瑞樹が姿を見えなくなったと思ったら次の瞬間には、牛鬼が倒れていて。一瞬の出来事に理解が遅れ呆然としていた牛頭丸と馬頭丸は、ハッと我に返って倒れた牛鬼に駆け寄る。
 それは一瞬のこと。瑞樹の姿が目の前から消えたかと思うと、次の瞬間にはすぐ脇にいて木刀を振った。牛鬼は慌てて瑞樹の攻撃を受け流すと、瑞樹はすぐに 第二撃を繰り出し、牛鬼の脇腹に一撃いれた。痛みに気が逸れた一瞬をついて続けて木刀を持つ手に。衝撃に痺れた手から木刀が滑り落ち、瑞樹はとどめの一発 を腹に決めた。
 実に鮮やかな動き。最初の動きは牛鬼の目では捉えられず、攻撃の瞬間をようやく目で追うことはできても、体の動きがそれに追いつかない。彼女の動きの速さは明らかに常規を逸している。
 やられた本人が人間である瑞樹にこうもあっさり倒されたことを驚いているのだから、牛鬼を尊敬する牛頭丸達にとってはかなりの衝撃だ。
「こ、こんなの無効だ! 第一、牛鬼様はまだ万全の状態じゃないんだ!」
「そうだ! そうだ!」
 こんなのは反則だと瑞樹に怒りを露にする牛頭丸と馬頭丸。
「なら、完治した状態でもう一度手合わせ願おうか」
「上等だ! 牛鬼様が人間なんかに負けるはずねぇんだからな!!」
 噛みつきそうな勢いで牛頭丸は瑞樹を睨みつけた。だが牛鬼は、よせ、っと牛頭丸を止める。
「相手が人間だからと油断したのが敗因なのは明らか。負けは負けだ」
「でも牛鬼様!」
「それでお前の目的は一体なんだ」
 牛鬼は手合わせを挑んだ理由を問う。
 答えようと瑞樹は口を開く。めずらしく感情のこもった忌々しそうな声。
「お前はリクオを傷つけた。リクオはお前のことを許してしまったが、私はリクオを傷つけたお前をただで許すことはできない。それにじいさんからも許可は貰ってる」
「総大将から?」
「そう……。これは私とじいさんが交わした“誓約”」
 ぬらりひょんと瑞樹との間には誓約がある。
 瑞樹は若菜とリクオを守るために、妖怪社会のことを知ろうとした。しかし人間の手だけでは限界がありkぬらりひょんの人脈と権利を条件付きで使わせてもらうことにしたのだ。
 条件の一つは、奴良組関係のことを把握していても、ぬらりひょんの許しがない限りは勝手に手を出さないこと。奴良組の……リクオの敵に成りうる可能性が あるものがいてもこの条件によって瑞樹は、相手が奴良組に属する者あるいは、同盟関係にある組織の者の場合は手を出すことはできない。この条件は知っての 通り今回の牛鬼が当て嵌まる。
 この条件に対して、瑞樹はさらに条件を付けた。
 それは、若菜やリクオが傷ついた場合、ことが終わり次第に相手に制裁を加えるのを許すこと。
 こちらの要求が多過ぎてぬらりひょんに拒否される場合もあったのだが、彼はこの条件を黙って呑んでくれた。
「ホントなら、リクオに傷をつけた、そこのガキとアンタを消したいところだけど……。リクオがそれを許さない」
 冷静な瞳の奥に静かな怒りが見える。伝える言葉は冷たく牛頭丸と牛鬼の首に絡み付き、牛頭丸はそれを挑発と受け取った。
「あの子が望まないことを私がするわけにはいかない。けれど、何もしないというのも私の気が収まらない。だから今回はこれで許してあげる」
 お前はいったい何様だと牛頭丸は思わず声を上げそうになった。瑞樹の木刀が牛頭丸の顔面スレスレで床板に突き刺さり、危うく鼻が擦れるところだ。
 木刀を動かした瞬間も、牛頭丸にはわからなかった。
「だが次は許さない。また今回と同じようにリクオを傷つけるようなことがあったら、その時は……」
 ――殺してやる。
 言葉の釘が確実に彼らの心に打ち付けられる。
 木刀を抜いて壁に戻すと、瑞樹はそのまま道場を出て行った。
 彼女の向けた殺気は本物で、言葉にもウソ偽りはない。
 二人の後ろで、面と向かって彼女の言葉を受け取ることのなかった馬頭丸ですら、一種の恐れを感じた。己の手が無意識の内に向けられた殺気に怯え、震えていることに気づくと牛頭丸は思わず舌打ちする。だが、牛鬼は別の感情が込み上げてきた。
 突然声を押し殺すようにして静かに笑い始めた牛鬼に、二人は驚く。
「なんてことだ。私は忘れていた!」
「牛鬼様?」
 初めてあの女を鯉伴から紹介された時のことを思い出す。
「あれは、あの女は、人間でありながらも鯉伴に“負けたことがない”、人間でありながら“百鬼夜行”にと望まれた者じゃないか!」
 人間ではありえない強さを持った女だと、今亡き二代目は言っていた。妖怪と同等に戦えて、百鬼夜行に加わる資格を持った女。二代目が生きていた頃、なん ども彼と彼女が“本気”の手合わせをして一回も勝負が“つかなかった”のを何度もこの目にしたというのに、なぜ自分は忘れていたのだ。うっかりだとすれば なんと自分は愚かな。人間だからと油断?そんなのは彼女には当て嵌まらないではないか。戦うまでもなく、あの女に対してそう思った瞬間すでに自分は負けて いたのだ。


◆ ◇ ◆


 外に出ると気配もなくそこに存在していた。
「なんじゃ、意外と簡単に許したもんじゃな」
 もっと派手に、道場が半壊するかと思って心配して損した、とぬらりひょんは笑う。
 無駄の物を壊すのは瑞樹の望むことではない。
 ホントはもっと怒り任せに叩きつぶしたいところだが、それをすると殺してしまいかねないので一応彼女なりに気を使ったつもり。
「完璧な状態ではないにしろ、“人間”の女に負けたというのは事実。自分の力に自身がある妖怪なら、これはかなりの屈辱だろ」
 淡々に言っているが、内心では笑っているのだろうな。
 だがぬらりひょんは首を振った。
「いやいや。牛鬼のことだから、もしかしたらお前さんに興味を持つかもしれん」
 あれでいて、まだ心は若々しいのだと、ぬらりひょんは言う。瑞樹にとっては興味を持たれようが持たれまいがどうでもいいのだが、あれを牛鬼が屈辱に感じ ていないというのなら、違う罰を与えた方がいいのかもしれない。しかし「今回はこれで許す」とハッキリと言ってしまった。
「はぁ…、情報収集不足か」
 心底不満そうにため息をつく。カッカッとぬらりひょんは笑って、口元を引き締めた。
「今回はありがとうな。約束を守ってくれて」
 二人の間に風が通り抜ける。
「誰よりもさきに黒幕の存在に感づいていたというのに、お前さんはわしとの約束通り、ことが片付くまで動かずにいてくれた」
「……誓約、だから」
「今回のことで、あいつにも考えるキッカケを与えることができたじゃろう」
 と言ってぬらりひょんが視線を向けたさきにあるのは、彼の孫の部屋。
「でも、まだリクオを望ましく思っていない者は多い。それに、旧鼠の件で裏で手を引いていたのは牛鬼だけじゃない」
 牛鬼以外はまだ直接リクオに手を出していない。だから動くとこができないと、恨みがましい視線を向けるとぬらりひょんは苦笑する。
「お前さんは約束事は破らないタイプだからのぅ。黙っていてくれることを信じているぞ」
「……それでも、リクオや若菜が傷ついた場合は、」
「ああわかっておる」
 お前さんは、ホント。リクオや若菜さんのことになると怖いのう。
 ちっともそんな気はしていないくせに恐ろしげに肩を振るわせるフリをした。
 本当に油断ならないのはアンタの方だろうさ。




<第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ 終>
2012.04.07 明晰
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