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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ <七>



牛鬼が生み出した幻覚。それは、今までリクオが倒してきた妖怪達の姿をしていた。
 妖怪として初めて覚醒した日に倒したガゴゼ。その四年後に覚醒して倒した蛇太夫。先日倒したばかりの旧鼠。
 体を上ってくる幻覚のネズミどもを切り捨て、それでも幻覚の数は変わらない。
 一斉に襲いかかる幻覚の敵に押されるリクオに牛鬼は嘆く。
「自分を守ってくれる百鬼夜行がいなければ、そんなものか!!」
 それは牛鬼の理想とする総大将はそんなものではない。
 かつて自分を率いた総大将は……。
「総大将は違った! お前の継いだ血は、腐ってしまったというのか!!」
 リクオを取り囲んだ幻覚の中心から、青白い炎が吹き上がる。
「牛鬼よ。ためしてんのか? 俺を、みくびんじゃねーよ」
 ぬらりひょんの血とともにリクオに受け継がれた奥義、明鏡止水の技。その青い炎はたちまちガゴゼ達を燃やし尽くす。
「答えてやるよ牛鬼。夜<おれ>の“意思”は変わらねぇ。血に目覚めた時からな」
 刀を肩に掛け、明鏡止水の炎を身に纏う。
「俺は三代目となり、てめぇらの上に立つ!」


◆ ◇ ◆


 牛鬼はかつて、梅若丸という人間だった。
 京の公家の家系に生まれた梅若丸は五歳の時に父と死別。その菩提を弔うために、七歳で比叡山のある寺に入った。
 母とはそこで今生の別れとなった。
 幼い梅若丸よりも、母の方がこの別れに涙を流した。
 頑張っていたらいずれまた会える、そう思って梅若丸は別れを悲しみはしたけれど、涙は一切流さなかった。
 やがて、頭角を顕し、寺の先輩達をどんどん追い抜かしていく。十歳のころには比叡山中にその才が知れ渡る存在となった。
 が、それは同時に同僚達の妬みを生む。
 十二の時に、彼は三度目に怪我を負った。
 どこからともなく飛んできた石つぶてが、ここに居場所がないことを教えてくれた。
 母に会いたい。自分を理解して無償で愛してくれる母に。
 彼は寺を抜け出した。
 しかし、比叡山から京への道は十二の子には長かった。
 野宿続きの慣れない旅で身も心も疲れていた梅若丸は、道中の琵琶湖畔の大津あたりで腰を下ろす。
 通りかかった二人の美女が声をかけてきた。
 梅若丸の名を知っていた二人の美女は母の使いだという。
 疑い深い梅若丸は、いつもだったら母の使いだと言っても見知らぬ人間に簡単に付いて行ったりはしなかっただろう。けれど母を強く求め、長旅で疲れ果てていた梅若丸は母が病気だと言う女達の言葉を信じてしまい、女達に連れさられてしまう。
 連れさられたその先、その山は地元の人間でも滅多に入らない「捩眼山」、おそろしい妖怪「牛鬼」があらわれる山であった。
 襲いかかる巨大な妖怪達。無力な梅若丸ただ呑まれるばかり。
 母に会うためにも死んではいけない。その思いで必死に逃げる。
 心を読んだ「牛鬼」は大笑いした。
「バカめ。お前の母親たぁコレのことか!?」
 妖怪の大口の奥を見て牛若丸は目を見開いた。
「か、母様ぁあああああ」
 美しかった母の骸に必死で手を伸ばし、自ら妖怪の口に飛び込む。
 立派な人間になれと言った母。
 泣いて別れを悲しんでくれた母。
 美しく微笑んでいてくれた母。
 ふつふつとわきあがる憎悪は、梅若丸を人間としてとどめおかなかった。
 彼の精神は霊障にあてられ、鬼のそれへと変わった。魔道に墜ちた少年は妖の腹わたをつき破る。
 新たな妖怪、牛鬼は母の死骸を抱えながら産まれた。
 人であった妖怪はやがて人を襲うようになった。
 菩提を弔うために死体を積み上げ、山に住まう妖怪共を引き連れ、人里を襲った。
 いつしか自分自身が牛鬼と呼ばれるようになり、母の愛を忘れるくらい年を経た。
 奴良組と呼ばれる百鬼夜行と抗争が起こったのはその頃。
 彼らは突然やって来て牛鬼に堂々とぶつかってきた。
 武闘集団の一大勢力となっていた牛鬼組はやはり真っ向からぶつかった。
 抗争は三日三晩続き、地力で勝る奴良組が結果的に上回った。
 そして大将として、首を刈られるそう思ったとき。
「おぬし、やはり強ぃのう。噂通りの力と才能じゃ!」
 牛鬼を褒め称えたのは奴良組の大将、ぬらりひょんであった。
「牛鬼、おぬしワシの仲間んなれ。のぅ?」
 やつは俺を試したのだ。自分の身をぶつけて、そして上回ってなお、俺を認めた。
 かなわぬと思った。
 それから数日後、牛鬼はぬらりひょんと盃を交わした。
 牛鬼は盃を交わした時言われた言葉、あの言葉を忘れることはなかった。


◆ ◇ ◆


「それがお前の祖父であり、私の、親分だ。私もかつては“人”だった。“生きたい”と、願う人間」
 赤黒い滴が床板にシミを広げる。
「だが人間には、悪鬼に耐える力がない」
 リクオの右肩から血が噴き出す。
 避けたと思ったに完全に避けきれなかったことにリクオは言葉を失い目を見開いた。
「それでもなお、人であり続けるなら。私は自らをかけ、葬るのみ。魔道に墜ちろリクオ。私のように人間を捨てろ。総大将になるのならば」
 それは幾十にも重なったリクオを圧迫させようとする言葉の重み。
 人間としての自分を捨てろと言っているのだ。
「私を越えてゆけ、リクオ」
 瞬間、無傷だと思われた牛鬼の肩から血が噴き出す。
 リクオはしっかり傷を負わせていた。それに満足そうに牛鬼は倒れる。
「それで、良いのだ……」
 牛鬼の下敷きにされた机が派手な音をたてて二つに裂かれる。
 勢いよく体から飛び出した血は天井に付着し、ポタポタと牛鬼の顔を一滴一滴濡らしていく。
「リクオ、聞け。捩眼山は奴良組の最西端。……ここからさき、奴良組の地<しま>はない」
 始まった語り。その中に込められた牛鬼の思いを、リクオは知らなければならない。


◆ ◇ ◆


 鴉天狗達が駆けつけると、そこは血の海。
 お互いひどい傷だらけのリクオと牛鬼に目を見開き、二羽の鴉天狗はこの状況を作りだす大元となった存在、牛鬼を睨みつける。
「貴様っ」
 キツく問い質そうとするとリクオが無言で手で制する。
「リクオ様?」
「この地にいるからこそよくわかるぞリクオ。内からも、外からも、いずれこの組は“壊れる”。早急に立て直さねば、ならない。だから私は動いたのだ。私の愛した奴良組を、つぶす奴が許せんのだ」
 全身に浴びる雷の光りに眩しそうに目を細める。
「たとえリクオ。お前でもな」
「兄貴……」
 とさかのある鴉天狗が視線を送る。
「逆臣、牛鬼! リクオ様に、この本家に直接刃を向けやがった!!」
 普段は冷静な彼が言葉を荒げる。
「当然だとは思わんか。奴良組の未来を託せぬうつけが継ごうというのだ」
 昼は身も心も人間。妖怪の行いを否定的に考えてる。だからこその牛鬼はショックだった。
「しかしお前には、器も意志もあった。私が思い描いた通りだった。もはやこれ以上考えることはなくなった」
 刀を握り、起き上がる。
「リクオ様、危のうございます!」
 鴉天狗が声を上げた。
 ゆっくりと刀を構える。
「これが私の、結論だ!!」
 鴉天狗が慌てて羽を広げる。リクオが斬られると思った。しかし牛鬼は持ち手を回し、刃を己の胸に突き立てる。
 血が一滴、床に零れた。
 呆然と牛鬼は呟く。
「なぜ、止める? リクオ……」
「リクオ、様?」
 リクオ達の後ろの柱にリクオによって弾かれた刃が突き刺さり、牛鬼の手から刃の折れた柄が抜け落ちる。
「私には、謀反を企てた責任を負う義務があるのだ……。なぜ、死なせてくれぬ。牛頭や馬頭にも会わす顔がないではないか……」
 必死に訴える姿は泣きそうにも見えた。
 全ての責任を負っての自害。とても彼らしい決断だ。けれどリクオは、はいわかりました、とそんな結論を許可する気はない。
「おめぇの気持ちは、痛ぇ程よくわかったぜ。オレがふぬけだと、オレを殺して自分<てめぇ>も死に。認めたら認めたでそれでも死を選ぶたぁ、らしい心意気だぜ牛鬼。……だが、死ぬこたぁねぇよ。“こんなこと”で……なぁ?」
 リクオの言葉に牛鬼も鴉天狗も目を見開いた。
 鴉天狗が反対だと声を上げる。
「若!? “こんなこと”って!! これは大問題ですぞ!!」
「ここでのこと。お前らが言わなきゃすむ話だろ」
 襲われた本人がなんてことはないとけろっとした表情で言うものだから鴉天狗達はやる気を削がれるような思いである。
「牛鬼。さっきの“答え”。人間のことは、人間んときのオレに聞けよ」
 リクオは牛鬼に背を向け、刀を鞘に納める。
「気に入らなきゃ、そん時斬りゃーいい。その後、勝手に果てろ」
 外はまだ雷雲が多ているが、気のせいか、ついさっきまでよりも雷の勢いが弱まったように感じられる。
 牛鬼の意識はそこで途絶えた。
 背中から床に倒れ込んだ牛鬼を、リクオに命じられて鴉天狗達は無傷の部屋に運ぶ。
 リクオが外の空気を吸いに入り口に立つ。建物の影から人影が分離して、現れる。
「ホントに、いいのか」
 聞き馴染んだ女の声に、気配なく腕を組んで仁王立ちするその人に振り返る。
「瑞樹さん……。いつからいたんだ」
 カナとつららを任せたはずのその人が今ここにいることに少し驚いた。この様子だとおそらくいままでのやりとりは聞かれていたのだろ。
「あの男は、お前の大切な友人達にも刃を向けたんだぞ。今回はお前や鴉天狗達が対応できたからいいものを、ヘタすれば死人がでてたかもしれない」
 メガネのレンズの奥から何かを秘めた瞳がじっとリクオを見つめる。
「それでもお前は、あの男を許すと言うのか」
「……あそこまで牛鬼を追い詰めたのはオレだ。あいつはあくまで奴良組のために体を張った。オレはその思いに答えたいと思ったし、結果的にみんな無事だったんだからいいじゃねえか」
「無事、ね」
 下から上までじっくりとリクオを観察する瑞樹。言いたいことはわかるが、どうか見逃して欲しい。
 緊張しながらも瑞樹の視線を受け入れると、彼女はため息をついて組んだ腕を解く。
「……わかった。今はそれで納得しておいてやる」
 雷雲の裂け目から稲妻ではない光りが差し込み捩眼山のあちこちを照らす出す。
 リクオの妖気が少しずつ体内に収まろうと縮小していく。髪は短く、栗色に。体格が一回り縮んで、人の姿に戻ったリクオはニッコリと微笑んだ。
「ありがとう、瑞樹さん」
「山荘に戻ろう。清継達がきっと待ってる」
「あ、ちょっと待って。僕、牛鬼と話さなきゃいけないことがあるから」




2012.03.21 明晰
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