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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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とある母の決意



夕方頃、仕事中にマナーモードの携帯が震えた。開くと”自宅”と表示されていたので息子達からだろう。
 二人共、仕事中には滅多に電話して来ないので不思議に思いつつボタンを押して耳に当てる。
「もしもし?」
『おかあさん、にいさんが』
 ――れいぞうこをもちあげた。
 次男の冷静な口調での言葉に「ああ、とうとうこの日が」と内心呟いた。
 分かっていたからか、響子の反応は落ち着いていた。息子の幽も一見すれば落ち着いたものだが、内心ではかなり焦っていることを響子は電話の声だけで気づいていた。
 とりあえず電話で二三告げたあと、電話を切り。会社に事情を話して早退した。
 響子の自慢の賢い息子は、響子に電話する前にすでに救急車を呼んだようだ。響子が会社を出た後駆けつけたのは近くの総合病院だった。
「静雄!!」
 案内された病室のベットの上には、本体でグルグル巻きにされた息子の姿。全身骨折、捻挫、打撲、脱臼、あらゆる負荷がまだ小学生の息子の体にのしかかっていた。
「母さん……」
 ムスッとしかめっ面だったのが母親の姿を見た途端緩んで、目元に涙が浮かんでいる。やはり痛いのだろう。
「大丈夫、じゃないみたいね。痛い?」
「へ、平気だ、これくらい……」
 プライドからか、それとも弟の手前だからか涙を浮かべながら強がりを見せる静雄の頭を撫でる。抱きしめるのは危ないから止めといた。
「幽も。私がいない間ずっとお兄ちゃんの側にいてくれありがとうね」
 そう言って幽の頭も撫でた。感情表現が上手くない子だけれど、喜んでいる。
「今日はお母さん達も病院に泊まるから。売店で何か買って来るけど欲しい物はある?」
「プリン」
「そう。幽は?」
「……プリン」
「あらあなたも?」
 静雄と違って幽はそこまでプリン好きというわけではなかったはずだが。それにおやつのプリンをすでに静雄の分まで食ったはずだが。
「それじゃあ、ちょっと行って来るから。二人共お留守番しててね」
 揃って二人が頷いた。
 売店は一階だったはず。
 これはまだまだほんの序章にすぎない。静雄が大変なのはこれからだ。
 少年が手にした『暴力』という名の異能。それに悩み、苦しみ、これから先の人生で静雄に付いて回ることを響子は知っている。それでも響子はそのことに関 し、特別な干渉はするつもりはない。あの子にとって『暴力』は災厄の種であると同時に成長に必要不可欠な糧でもあるのだから。
 もちろん心配はするし、時には落ち込む静雄を幽と二人で慰めることもあるだろう。しかし『暴力』を消し去ろうとは思わない。
 親は時に厳しくあらねば。


◆ ◇ ◆


 売店でプリンを二つ買って病室に戻る。
 プリンの一つを幽に渡してやると幽をそれを静雄に差し出した。
「なんだよ」
「これ。おやつ、おれがふたつとも食べちゃったから……」
 ――まあ!
 幽は兄の分のプリンを食べてしまったことを後悔していたのだ。せめてもの償いのようなつもりなのだろ。なんと健気な。
 まあ確かに。名前まで書いてあったのに食べてしまったのはまずいだろ。私だって怒る。
 もちろんおやつを取られたぐらいで子供を怒るような大人げないマネはしないけれど。
「そうね。これでおあいこ。ね、静雄」
「べ、別にもう怒ってなんかねえよ」
「じゃあ、いらない?」
「誰もそんなことは言ってねえ!!」
 少しお茶目にプリンを引き戻そうとして静雄が慌てて止める。
 ――うふふ!
 可愛い子供の可愛いやりとり顔がにやけてしまうのは、親としては当然のことだと思う。




2011.09.18 明晰
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