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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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とある女性の驚愕



秘密を抱えた少女は大人になり社会に出て、そこで一人の男性と出会った。
 私より一つ年上の同僚である彼が告白してきたのが始まりで、所謂社内恋愛というやつを私と彼は始めたのだ。
 彼は私には勿体無いぐらい、人としても男としても素敵な人であった。
 私達の関係は至って良好で、五年も恋人関係が続いた。そして付き合って五年目にプロポーズされた。付き合い始めた当初はまさかこんなに長く関係が続くとは思いもしなかった。
 彼といると安らぐし、結婚することに抵抗はなかった。むしろ、この先も彼と一緒に過ごしてゆけるというのは、私にとって喜ばしいことだ。
 ただ、私は確かに彼のことが好きだったが、彼の私に対する愛に比べればそれは本当に小さなもので、私が彼を本当に愛していたかと追求されれば、私は「も ちろん!」っと断言することは出来なかっただろう。だから、本当の意味で私が彼を愛したのは結婚した後になる。夫婦となって一緒に暮らすようになり、朝昼 晩、彼の愛を受け続けることによって、ようやく私は彼の愛を愛することが出来たのだ。
(本当に、好い人)
 私が彼の子を身籠ったのは、結婚して三年目のことだ。妊娠が発覚したのは、私が二十八で彼がもうすぐ二十九の誕生日を迎える頃だった。妊娠の報告は結果的に彼にとっては誕生日プレゼントの一つとなった。
 私のお腹の中に子どもがいると聞いてから、まだ十分に成長していないのだから動くはずもないのに、毎日のようにお腹に耳を当て、命の鼓動を感じようとする彼の行動がとても愛おしかった。そう感じるたび、私は彼の妻であれることを改めて感謝した。誰に?もちろん夫にだ。
 少しずつ成長していく我が子を感じながら、親子三人触れ合える日を待ち焦がれる日々が続いた。
 そして、記念すべき我が家の第一子は、一月の冬に生まれた。男の子だ。長男の名は生まれた瞬間に決まった。というのも生まれる前にすでに男女それぞれの 場合の名前候補を決めていたからだ。夫と結婚し、自分の氏が変わった時から長男の名前はコレにしようとずっと決めていたのだ。
 随分昔、私が『私』であった時に気に入っていた池袋を舞台としたとある小説の登場人物の名前だ。初めて夫の名前を聞いた時、職場が池袋なこともあって真っ先に浮かんだのがそのキャラクターだった。残念なことに今はその小説は存在していないが。
 可愛い我が子の名前にしては理由が適当すぎるというかもしれないが、ちゃんとした普通の意味も込めていた。ソレも小説を参考にしたのだけど。
 平穏で、静かに、幸せに過ごして欲しい。そう、願いを込めた。
 しかし次男が生まれて夫が名付けた名前が達筆に和紙に書いたのを見た時は愕然とした。最初はただの偶然、かなり確率は低いがそうだと思った。けれども息子達が成長していくにつれそれは偶然ではないと知り、同時にあの小説が存在しない理由がわかってしまった。
 パラレルワールドという言葉を聞いた事がある。アニメ、マンガ、ドラマなどで用いられその言葉は普通の人でも一度は耳にした事がある程世の中に広まっていた。
 この世界はもしかしたら『私』にとって、パラレルワールドなのかもしれない。
 転生というものがどういう仕組みなのかは知らないが、私の場合は過去から未来へと転生したわけではないようだが、未来から過去へと転生したわけでもないようだ。私は世界を超えて転生してしまったのだろう。
 その証拠に『私』から受け継いだ記憶には、生まれる前から息子達に関する知識が存在していたのだ。
 だがまあ、正直言って私は自分がパラレルワールドに転生したとかはどうでもいい。私はこの世界に生まれた住人で、『私』と違って私の生きる世界はここだ けなのだ。それに、『私』にとって愛するべきキャラクターである彼等は、私にとって愛するべき息子達。記憶があるからといって『私』と同じように読者でい ることは許されない、否、私自身が許さない。
 だからといって、これから起きるかもしれない出来事を邪魔するつもりもない。それは息子達の人生に余計な干渉をすることであるから。
 私は母親として愛しい息子達を見守るだけだ。
「おかあさーん!」
「おかあさん」
 ただ悲しい事は、息子達の人生を一人で見守らないければならないことである。
 夫の一部は煙となって煙突から空へと去って行く。息子達が腰に抱き着いて来る。
 長男の静雄は小学生になったばかり、次男の幽は保育園に通っている。二人共まだまだ母親に甘え盛りの幼い子どもである。
 人生とはいつ何が起きるか解らない。交通事故で運悪く即死。『私』と同じ末路を辿り棺桶に入った夫を見た時は、『私』の記憶を受け継いだ時よりも衝撃的で胸が痛かった。
 母一人で子ども二人を育てる事は大変なことだろう、息子達を親戚に預ける気も施設に入れる気もなかった。世の中はそう甘くない。けれども息子達は必ずこ の手で育てる。それは母としてのプライドであり使命感であり、自身と息子達を心から愛してくれた夫の分まで子ども達を愛したいという母親の愛情であった。
「さあ静雄、幽、帰ろうか」




2011.04.20 明晰
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