忍者ブログ

夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ <六>



まるで目の前に雷が落ちたような衝撃であった。しかしそれは雷ではなく、漆黒の翼を広げた三羽の鴉天狗。
 錫杖を振り回し目紛しい動きで次々と妖怪を伸して、あっという間に全滅。
「……若はいないのか」
 鴉天狗達は何かを探しまわるよう目を動かした。
 鳥目は夜は効きにくいと言うが、彼らには関係ない話のようだ。
 錫杖で思いっきり頬をぶっ叩かれ、湯船に沈められた少年は水面上に飛び出すと、乱入者を睨みつけた。
「何しやがる! てめぇら何者だぁー!!」
 喚く少年を鴉天狗達は冷めた目で見下す。
「小僧。自分が誰に口をきいているのかわからんのか。我らは鴉天狗一族。知らぬわけではあるまい」
「か、鴉天狗!? 本家の、お目付役……。なんで、ここに……」
 ハッと我に返ると隣には陰陽師。上空には鴉天狗。
 さらに鴉天狗の一人が嫌悪を浮かべた表情、まさにゴミでも見るような眼差しを向けながら、怨念でも籠りそうな声色で言葉を発する。
「汚らわしい。女湯を襲う妖怪か」
 声からして女性なのだろう。
 何かとてつもない誤解を受けているような。
 三羽鴉の長男が少年に問い詰める。


◆ ◇ ◆


「もう……。あの二人どこに行ったのかしら、清継君達もいないし」
 勢いよく階段を駆け上がって来たのはいいものの、探し人は見つからず。
「お前までどこかに行かれたきりがないんだが」
「ひゃっ!?」
 突然の声に驚いて足を踏み外す。
 後ろに落ちる! と目を瞑ると暖かい感触がカナを受け止めた。
 誰かの胸に受け止められたと気づいて振り返ると、呆れた表情で見下ろされる。
「あ、瑞樹さん……」
「夜に一人で出歩くな。迷ったらどうする」
「ご、ごめんなさい」
 帰るぞ、と向けられた背に慌ててカナはリクオ達が山荘を抜け出してどこかに行ってしまったことを告げる。
 二段下で立ち止まった瑞樹は、今度はカナを見上げる形で「知ってる」と淡々と呟いた。
「心配ない。……リクオは、しっかりしているからダメだと判断したら清継を引きずってでも戻って来る」
 随分とリクオを信頼しての発言である。
 大人がただの中学生にそこまでの信用を置いているがカナには不思議に思えた。
 彼女の冷静な態度を見ていると何だか焦って飛び出して来た自分が段々と馬鹿らしくなってくる。
 そもそもなんであんなにムキになって探していたのか自分でも理解できない。
 下から瑞樹に促され、大人しく山荘に戻ることにした。
 懐中電灯の灯りを階下に移す時、茂みの近くで光りが反射した。何?と思って照らしてみるとそれは、リクオの掛けていたメガネ。
「瑞樹さん、コレって」
 瑞樹はカナの後ろからそれを凝視していた。
 ハッと何かに気づいたよう階段上を見上げる。
 その時、カナは自分達を取り巻くような霧に気づいた。
 冷えきった風が木の葉を舞い上がらせ、カナは古びた階段の上、瑞樹と同じ方向を見上げた。
 あ……、あの人は……。
 見覚えのある男が、カナが探していたウチの一人の少女を横抱きにして降りて来る途中であった。
 彼の方も瑞樹達に気づいたようで、一瞬瑞樹と目を合わせると、抱きかかえていたつららと腕にぶら下げていたつららの荷物を瑞樹に渡した。
 瑞樹は腕に抱えたつららの状態を見て表情を固くし、男の顔を見る。
 流し目でカナを見る男と目が合ったことで、カナの動悸が高くなる。
 男は再び視線を瑞樹に戻した。
「行くとこがある。その娘を、頼むぜ」
「……わかった」
 瑞樹は今回の旅行において引率者兼保護者の立場にある。保護者ということは、この間子供達の面倒を見るということ。
 男は二人に背を向け、再び階段を上がって行く。
 彼が向かう先がどこであるか瑞樹は知っている。
「………家長、手伝え。確かこのカバンに救急セットを入れていたはずだ」
「は、はい!」
 とりあえず瑞樹はつららの手当を優先することにした。
 階段に腰を下ろし、膝の上につららの頭を乗せを寝かせる。
 瑞樹に言われた通りつららが持っていたカバンを開けたカナはいきなり出てきた大量の氷を不思議に思うも、それを引っ張り出し奥から救急セットを取り出し瑞樹に渡した。
 見たところあちこちに擦り傷を作っている。なんとなく血の臭いする気がして靴を脱がせると怪我をしているようだ。
 気絶しているわけでなく眠っているだけのようだが、傷に触れてもとくに痛みはないようだ。
 もともと“彼女達”の体は頑丈で、傷の治りも早い。応急処置だけ済ませば平気だろ。
 つららの持っていた氷の一つを溶かし、ハンカチを湿らせて傷についた汚れを拭う。
 手慣れた様子で応急処置する瑞樹を横で眺めながらカナは考える。
 この傷は、ひょっとして妖怪に?
 でも、あの人は妖怪の主じゃ……。
 リクオ君は?
 なんであの人と?
 色々な疑問が渦巻く。
 その時つららが腕を上に伸ばした。
 起きたかと思って顔を覗き込んだ瑞樹の首に巻き付け「若ぁ~立派なお姿ですよ~」と寝言を呟く。
 何が何だか、カナはもう考えることを放棄した。
 瑞樹はつららの腕を剥がし、空を見上げた。
 下の方は静かだというのに、上の方ではこの山の頂上を中心広がる雷雲が呻き、時折声を上げていた。
 まるで、この山の主の心情を代わりに体現するかのように。


◆ ◇ ◆


 その男と会ったのはリクオの父、奴良鯉伴が生きていた頃。
 若菜が鯉伴のもとに嫁ぎ、瑞樹が若菜の為にと妖怪世界の知識を求めていた頃。瑞樹はその男をぬらりひょんから紹介された。
 牛鬼組の頭領、牛鬼と名乗ったその男は奴良組支配下地域の西方の砦である捩眼山の主だという。
 鯉伴やぬらりひょんとは正反対の堅物そうな男だと初対面時の瑞樹は思った。
 牛鬼は物事の決断についてひどく慎重で、焦らずゆっくりと物事を見極めた上で決断することが多かった。そんな彼を、牛のように歩みの遅い奴とバカにするものもいたが、ハッキリ言ってそいつらの方が馬鹿である。
 彼は確かに決断するまでに時間が掛かるが、決断した後の実行は速い。
 決断をゆっくりと見極めた上での行動にはまるで躊躇がなく、物静かそうにしていても彼は間違いなく鋭い爪や牙を持った獣、いや妖怪であった。
 その牛鬼が一度だけはしゃいだ姿を瑞樹は見たことがある。
 あれはリクオが初めて妖怪の血に目覚め、出入りしたあとのすぐのこと。
 リクオの活躍を捩眼山で聞いた牛鬼はすぐに奴良組に駆けつけた。その時の彼はリクオが妖怪の血に目覚め、さらに総大将を継承すると言った言葉がよほど嬉しかったらしく、いつもの物静かな姿は見られなかった。
 これからの三代目の成長が楽しみだという彼に木魚達磨は冷静に「あまり期待しない方が良い」と言い放った。
 案の定、リクオは牛鬼の期待とは裏腹に「総大将は継がない」「立派な人間になるんだ」と言って、その一度っきり妖怪に変化することはなかった。
 思えば、もうその時から少しずつ牛鬼は歩み始めていたのかもしれない。
 そして、決断した。
 ここ最近彼が企み実行した事を知っている。彼の目的もある程度は予想出来る。
 だから瑞樹は捩眼山<ここ>に来たのだ。
 ぬらりひょんと交わした“誓約”は奴良組に関わる全てに適用される。
 彼は“誓約“を違反した。瑞樹は“違反者”を許すつもりはない。


◆ ◇ ◆


「そろそろ、か」
「え?」
「もうすぐ雷も収まるはずだ。明るくなり始めたらつららを起こして山荘に戻れ」
「え、でも……瑞樹さんは?」
「私は、念のためリクオ達を探して来る」
 つららをカナの膝に移し階段を上がる。
「あ、懐中電灯……」
 道を照らす灯りも何も持たずに瑞樹は上に行ってしまった。
 まあ大人だしきっと大丈夫。
 だが、眠っているつららと二人っきりで残され急に自分達の方が心配になってくる。
 もしもこんな時に妖怪と出くわしたりしたら、と。
 カナは不安そうに広がる暗雲を見つめた。




2012.02.23 明晰
PR
  

COMMENT

NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 

プロフィール

HN:
明晰
性別:
非公開

最新記事

P R

Copyright ©  -- 夢想庫 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / material by DragonArtz Desighns / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]