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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ <伍>



そこら中に妖気が充満しているせいで、気が読みづらい。瑞樹は思わず舌打ちして、弱々しくも感じる子供の気配を追って懐中電灯を片手に石畳の階段を上っていた。
「懐中電灯ぐらいは持ち出しているといいんだが」
 山の夜は暗い。
 町にいるときのように周りの灯りに頼るつもりで外に出たら簡単に迷う。どうやら今回は頂上に続く一本道を歩いているようなので道から外れなければ、とりあえず迷う心配はないはず。
 彼女はリクオ達を探すつもりで外に出たようだが、瑞樹が感知できる範囲に彼らの気配はない。リクオ達は別の方にいるようだ。
 おそらくは清継がワガママを言って外に出たのだから、今頃「牛隠れの洞窟」あたりにいるんじゃないだろうか。
 まさに瑞樹の予想は的中。リクオ達は今この一本道とは別のルートを通って上に向かっていた。このまま歩けばいずれは合流するだろうが、そこまで待つ気はない。
 足を速めようとした時、見知った気配を感じて振り返る。視線を下、山荘の方に向けた。
「三羽鴉。……情報が鴉天狗に伝わったか」
 まるでここではないどこかを見るように瑞樹の意識は一瞬この場を離れた。
(これで”手札”と“場”は揃った)
 “誓約”のため、瑞樹は奴良組内の問題に深く関わることはできない。それが瑞樹の理性となり、行動を制限する。どんなに窮屈を感じても“誓約”なのだからしかたない。
 けれどだからといってただの傍観者でいるつもりは全くない。それも“誓約”。
 “誓約”は約束。“守るための”ルール。


◆ ◇ ◆


 いきなり分かれ道で二手に別れた清継と島。リクオはとりあえず島の方をつららにまかせて清継を追いかけた。
 様子がおかしい。清継達の様子はまるで、そう、誰かに操られているような。
 呼び止める声に反応を示さない清継の足を無理矢理止めて、“気絶してしまった”彼を近くの物陰に隠すように置く。ふと、つららの方が気になった。イヤな予感がする。
 日暮れの森を走る。思ったよりも距離は短く、リクオの視界に飛び込んで来たのは地面に倒れる側近と、彼女に向かって刀を振り下ろそうとしている少年の姿だった。
「つらら!!」
「若!? きちゃ、来ちゃダメです」
 変化を解いている彼女を追い詰めているということは、彼は人間ではない。
 今にも駆け寄ってきそうな様子に気づいてつららは叫んだ。
「逃げてぇーー! 若ーー!!!」
 瞬間、ギィイインと噛み合わせの悪い音がその場に響いたかと思うと、少年は刀を突き刺した場所につららの姿がないことに驚いた。
「何してやがる、お前」
 静かな怒りを含んだ声。いつの間にか抜き身の刀を構えたリクオ。腕の中にはつららが抱えられ、少年は素早い行動に少し意外といった表情を見せた。
「この女は、奴良組若頭の――『僕』の下僕<しもべ>だぞ」
 一瞬、“夜”の片鱗が見えたように思えたが、彼はまだ“人間”であった。
「わかっててやってんなら。『俺』はお前を、切る!!」
 夜が近付くと血が騒ぐ。鼓動が高鳴る。
 刀が交わった一瞬、確かにリクオの中の何かが大きく反応したのを感じた。
「リクオ様、下がってて、ください。私が……やらなきゃ」
 傷だらけのその身で、いまだリクオを守ろうとする。
「バカ言うな。お前、大怪我してるぞ」
「でも、私がやらなくて、誰がリクオ様を守るんですか!!」
 そう言ってつららは立ち上がった。が、相手の刀で貫かれた足に鋭い痛みが走り、立つこともままならない。その状態でリクオを守るのは誰が見ても無理だと言うだろう。
 リクオが咄嗟に支えなければまた地面転がっていたところだ。その様子を見て相手の少年は嘲笑う。
「そんな弱っちい娘に守ってもらわなきゃーならない妖怪の総大将なんてよ、そんな奴……不必要だと、思わんか?」
 逆光のせいで少年の顔はよく見えない。けれど大きな弧を描いた口もとはよく見えた。
 明らかに馬鹿にするような挑発するような言葉を向けられても、リクオはそれに対して怒りを感じることはない。そんなことよりも側近を傷つけられた方が大事だ。
「何者だアイツ。やはり、牛鬼の手下なのか」
「わかりません。私、身内と思いつい油断して……。でも、あいつ、リクオ様を本気で殺しに来てる!」
 敵と見なすにはそれだけ十分な理由。
 リクオが止めるのも聞かず、つららは無理に立ち上がろうとする。
 今のリクオは人間。妖怪の少年を相手にするにはあまりに力が足りなすぎる。つららは側近、リクオの護衛。リクオを守ることがつららの使命。
 痛みに打ち付けられる体で懸命に、体を張ってでも守ろうとする下僕の体を引き寄せる。
「いーから。心配しなくていい」
 つららの頭に手を乗せて、言い聞かせるように。
「待ってろ」
 そう言って、敵に向かって行く姿が一瞬”夜”と被った。
 “そんなはずはない”。彼は今“人間”だ。
「死ね。奴良リクオ」
 少年は正面から向かって来た。“人間”であるはずのリクオが自分の攻撃を避けられるはずがないと確信して。
 我に返ったつららは咄嗟にリクオに手を伸ばした。
 が。
「!?」
 真っ直ぐと振り下ろされた刃を受け止め、そのまま受け流した。
 ありえない、つららと少年は思った。
 リクオは横に踏み込む。攻撃を仕掛けるつもりだと気づいて、少年は忌々しげに鼻で笑った。
「この午頭丸の『爪』が、“ふぬけ”にかわせるか!!」
 放たれた一線をリクオは身を屈め避け、後ろの木が切られた。避けるだけではない。刃を交え、“まともな”切り合いが成り立っている。
 たった刀一本で“人間の”リクオが“妖怪の”少年と“対等”に戦えている。
 それはありえないはずの、つららですら我が目を疑う光景。そして牛頭丸にとってもまったくの予想外。
 リクオは戦えないはず。だからいつも面倒に巻き込まれることを避ける道を選ぼうとする。そう認識していた。けれど、もしもその前提が“間違っていたら”?
 しかし、けれど、リクオ自身言っていたではないか「僕にそんな力はない」と。それが彼のコンプレックスで、三代目襲名を拒否する理由の一つ。
 でも、だけど。おかしい、おかしい、おかしい。
 矛盾が生まれている。いつから?どこから?それとも、最初っから?
 予想外にあっさりとやられないリクオに動揺する自身に気づき、午頭丸は噛み締めた。
 何やら呪文のようなものを唱え始めたかと思うと急に目眩が起こった。
 ――午頭陰魔爪
「若! 危ない!!」
 その声にハッと我に返ると牛頭丸の背中から『爪』が生えてリクオに向かってきた。リクオの体を跳ね飛ばし、その衝撃でメガネが地面に落ちる。まともに攻撃を受けてしまったのを見てつららは悲鳴を上げた。
「牛鬼組は人を操り惑わせ引き寄せ殺す『怵』の代紋。人間風情に、負けるはずがねーんだ、よぉー!!」
 リクオは素早く身を起こし向かってきた刃を受け止めた。しかしそうするとリクオの手が塞がり、そのスキを狙って牛頭丸の爪が襲いかかって来る。
 木を盾にしてなんとか躱すが、背中に木がぶつかる。とうとうリクオは追い詰められてしまった。
 勝算を得た牛頭丸が爪を増やした。
 これを避けるのは無理だ。
「これで、最後だよ!!」
 そう、これで。“普通なら”これで終わっていた。
 それは一瞬のことだった。午頭丸の爪が全て切り落とされた。追い詰めたと思い込んでいた獲物によって。
 信じられなかった。そうだ、最初っから信じられないことだらけだ。
「何故だ。妖怪でもねぇ……てめぇに……」
 倒れるゆく牛頭丸の問いにリクオは淡々と答えた。
「血なら流れてる。悪の、総大将の血がな」
 唖然と立ち尽くしているつららにリクオは視線を向ける。
「もう大丈夫だ」
 リクオの姿が“妖怪”に変わっていた。つららは驚きで震える体を落ち着かせることができない。
「知ってたよ。自分のこと。……夜、こんな姿になっちまうんだな」
 彼は、“どちら”なのだろう。
「若……」
 でもこれだけはわかる。昼のリクオは気づいてしまったのだ。――否、思い出したのだ、本来の自分を。


◆ ◇ ◆


 瑞樹が三羽鴉に気づく数分前。
 山荘でゆっくりと温泉に浸かっていた少女達に異変が起きた。
 おかしな視線を感じて振り返ると塀の向こう側から、昼間見たような鋭い爪を持った牛のような巨大な妖怪の群れが浴場を覗き込むようにしていたのだ。
 少女達が気づくと同時に襲いかかって来る。普通なら一口で食われてしまうところであっただろうが、
「禄存!」
 ゆらの放った紙が巨大鹿に変わり、妖怪に向かって立派な角を突き立てる。
「入浴中の陰陽師襲うなんて、良い度胸やないか」
 なんの考えもなしに奇襲してきたというのなら無謀である。ただの人間の子供の中に陰陽師が紛れ込んでいるなんて妖怪(あちら)は考えもしなかったのだろうけど。
 ゆらはもう一枚放った。光を帯びた紙は見る見るうちに具象化し、巨大な狼の姿に変わり唸り声を上げた。
 一匹の妖怪の上で彼らを指揮していた馬の頭蓋骨を被った少年は予想外の異物にムキになる。
「ええい! 陰陽師は後回しだ! 他の女を狙え!!」
 陰陽師といえどゆらはまだ修行中の身。守りながら複数の敵にどこまでやれるか。
 なんとかしてみせるとは言っているが状況が悪いのは巻達でも見てわかる。
「そーいえばセキュリティがどーとかって……」
「そーよ。清継君が言ってた」
 この山荘には妖怪セキュリティが備わっているから安全さ、と自信満々に言っていた。
 巻達は室内へと駆け込み、壁の柱にそれらしきボタンを見つけて押した。すると、風呂場への出入り口にシャッターが下がり始め、同時に昔の空襲警報のような音が響き『侵入者~侵入者~』と機械的な音声が流れる。
 が、清継曰くの妖怪セキュリティのお祓い済みシャッターは周りの壁も巻き込んであっさりと妖怪の爪に破壊される。
「ぎゃぁあああああ!!! 何よこれー! 全然役に立たねぇええええ! 清継のアホぉー!!!」
 再び風呂場に逃げだした二人を一匹が大口開けて待っていた。妖怪の口は寸前。全裸で死ぬのはイヤー!と叫ぶ少女達。
「武曲!!」
 突如、少女達の前に落ち武者が現れ妖怪を切り捨てた。
「拙者、ゆら様の命によりお守り致す!」
 第三の式神武曲。ギリギリであったが間に合ってゆらはホッと肩を降ろした。
「くそっくそっ……あいつ何匹式神だせんだよ! 午頭丸の奴、なにが『三代目のいない楽な方』だ! ちくしょ……。しっかり強ぇのがいるじゃねぇか!!  午頭丸のアホッ! アホッ! 早く牛鬼様に勝利の報告をしたいのに。午頭丸よりも、早くっ。またっ、馬鹿にされる!! なんだよクソッ!! 行けうしおに 軍団! 根香! 宇和島!てめーらの怪力、見せつけろ―――――――!!!!!」
 総攻撃を仕掛けて来る。ゆらは爆札を放ち、岩諸共妖怪にダメージを与える。妖怪倒れたことで足場をなくした少年が転がる。
「……これじゃらちがあかん。防げはするけど、攻撃が厳しい」
 妖怪探索を目的とする部活に入っているならば対妖怪の護身術の一つでも覚えさせなければこの先危険だと気づいたゆらは、帰ったらすぐにも覚えさせてやろうと決める。
 ゆらの式神はこれが全てではない。まだいるし、“最終手段”もある。けれどソレは悔しいことに己の未熟のせいでまともに使ったことがない。
 対策を練るのに思考を巡らせていると急に巻と鳥居がゆらにもたれ掛かって来た。
「おわ!? とっ…」
 バランスを崩し湯船の中に落ち、そのせいで集中力が途切れゆらと精神が繋がっている式神達も急なことで力のバランスを崩してしまった。
 禄存が力押しに負け、倒れると紙に戻って湯に浮かんだ。
「な、どうしたんや二人共!? 邪魔せんといて!!」
 よく見ると二人の背中から糸のようなものが伸びて、その先はあの少年の手元に繋がっていた。
「よしよし、いいぞ。なんだなんだそーか。殺さずに利用するってのもありだったな! 僕頭良い!」
 これは少年の術である。人を操る技、昼間の化原も実はこの少年が操っていたのだ。
 まるで勝算を掴んだとばかりにはしゃぐ。
「今度こそ行けー! 集中攻撃だ!!」
 四方ぐるりと囲んだ敵が一気に襲いかかる。咄嗟に残ったニ体の式神を呼んだが、敵は目前、とても間に合いそうにない。
「っあかん!」
 迫り来る爪や牙から逃れることはできない。
 その時、落雷のような閃光が温泉に落ちて、山の杉の木にも負けぬ程の巨大な水飛沫が天に向かって伸びた。




2012.01.31 明晰
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