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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ <四>



清継の父の山好きがこうじて建てたという別荘は、以前訪れた資料部屋と同じような成金趣味な内装であった。
 山荘にはあまり似つかわしくないシャンデリアやムダに多い骨董品の数々。
 清継が勝手に妖怪研究用に建て替えたと言っていることから、おそらく父親はもうこの山荘を使っていないのだろう。
「さぁ、お待ちかね。この奥が特製の温泉だよ。女の子達、思う存分入るがいい」
 大手上げて指した向こうに旅館にあるようなのれんがあった。
 浴場を覗くと旅館並みに広い露天風呂。
 鳥居と巻は歓声を上げてさっそく入ろうとカナの背中を押す。
 今にも服を脱いでさっさと風呂場に飛び込んで行きそうな女子達の背中に瑞樹は呼びかけた。
「私は先に部屋に行くから。持って行って欲しい荷物があったら今渡しな」
「はーい!」
 勢いの良い返事をしたあと、カナ達はカバンから着替えを取り出してカゴに分ける。
「……花開院」
「はい?」
「ここはまかせたから」
「? わかりました」
 なんのことだと戸惑いつつもゆらは頷く。
 瑞樹は自分の物を含め六人分の荷物を持って部屋に向かう。
 ちなみについさっきまで一緒にいたつららはいないが、どこに行ったのか容易に想像がつくので気にしていない。
 寝室は二階にあり、部屋に入って荷物を置いた瑞樹は何気なく窓辺に近付いた。夜闇で暗い林の周辺にチラチラと小さな光が見える。
「まったく」
 三人の少年に一人の少女。間違いなくリクオ達だ。


◆ ◇ ◆


「戻って来ないねー、瑞樹さん。入らないのかな?」
 カナは出入り口を気にした様子で呟いた。
 風呂の中で足を組み、岩に背中を預けた巻がぼんやりと
「そういえば瑞樹さんってさー。なんだか不思議な人だよね」
 と言って、ゆらは首を傾げた。
「いつも、ってかあたしと鳥居は今日初めて会ったんだけどさ。なんかずーっと無表情で、いかにもクールな大人の女性って感じ」
「たしか奴良は昔っからの知り合いなんだよね」
 髪を洗い終えた鳥居が参加する。
「それで清継の師匠? だっけ? あんな人でも妖怪が好きなんだ、よね?」
「さー? でも詳しいのは確かだと思うよ。ね、ゆらちゃん」
「ええ。妖怪に関わる珍しい書物もいくつか所有しているようですし」
 カナとゆらの二人はリクオの家に訪問した際に瑞樹と初めて会った。
 その時のことを思い出すと、怖い人という印象がある。けれど清継の趣味に付き合ったり、目の前の温泉に夢中になった自分達のために荷物を運んでくれたりと、気の利いたところがあるのを見ると、悪い人ではないのだろう。
「いないと言えば、つららちゃんは?」
「そーいえば」
 巻に言われて初めて気づいたかというように、ゆらはキョロキョロと見回す。
「瑞樹さんに付いて行ったのかな」
 と鳥居が言ったのだが、カナの耳に入っていなかった。
「わ、私先に出るね!」
「え、もう?」
 ろくに温まらずに行ってしまったカナ。
 彼女の思い込みによる的外れな予想によってのことだったが、この行動のおかげで災いを免れられたと知るのはあとになってだ。


◆ ◇ ◆


「あれは……」
 不穏な気配を感じてしばらく外の様子を窺っていた瑞樹は建物から一人の少女が出て行くの見て、目を細める。
 やはり、といった感想だ。
「まったく、しょうがない」
(ここは、まあ花開院の娘がいるし。“外の連中程度”ならあの娘で十分だろ)
 いくらなんでも一般人の娘を“妖怪だらけ”の森に一人で歩かせておくわけにも行かない。
 瑞樹はカナを追って山荘を出た。
 やけに生温い風を頬に感じながらも、まるで気にすることなく山奥に向かう。
 山荘にはおびただしい数の妖気が漂い、木々の影に紛れた巨大な影が山荘囲んでいた。
 この気配は瑞樹達がこの山に足を踏み入れたときからずっと付き纏っていた。
 それに気づいていながら何も言わなかったのは、清継達がいたからだ。それに“あの程度”なら“瑞樹一人で”どうにかできる。
(それと“旧鼠の件”について。落とし前、つけてもらわないとな)
 向こうはおそらく招いたつもりなのだろうが、招いた獲物の中にとんでもない肉食獣が隠れているとは、想像もしていないのだろう。


◆ ◇ ◆


 一方、その頃――。
「見ろ! あれを! 絶壁の妖怪スポット『牛隠れの洞窟』だ!」
 三人の少年が崖下を覗き込むと、壁から突き出した足場と丸くくりぬいたような洞窟が見えた。
「かつてこの山で妖怪に襲われた法師が逃げ込んで百日間過ごしたという洞窟」
 階段などはなく下に行くには飛び降りるしかなさそうだ。しかし、下の足場までには距離があり、ただ飛び降りては危険である。それに降りれたら降りれたで上への戻り方がわからない。
 話の法師も、過ごしたと言うよりは戻れなくなったというのが正しいのではないのだろうか。
「よし。島君降りよう」
「ムリですよ!!」
 その時、茂みが大きく揺れて辺りを警戒していたつららが反応した。
「リクオ様、あぶなーい!!!」
 危険から遠ざけようリクオの背中を強く押した。
 しかしよく見れば茂みから出てきたのはただの狸。つららはやれやれと額の汗を拭った。
 そして押されたリクオはというと。彼は清継達と一緒に崖下を覗き込んでいたわけで、その時、力一杯背中を押されたリクオはそのまま……。
 清継と島は崖下の例の洞窟の前に転がり落ちたリクオを思わず無言で見つめていた。
 とにかく気を取り直し、清継達は次のスポットに向かう。
 その間もつららはやけに周りを警戒した様子でリクオの周りをグルグルと回りながら歩き、リクオとしては歩きづらくてしかたない。
「この先もスポットがあるぞ! 奴良君はどんくさいから気をつけて歩きたまえ!」
 その言葉をぜひともつららにも掛けてやって欲しいと、頭に引っ掛ったクモの巣で「罠です!」と騒ぐつららから、クモの巣を剥がしつつ思う。
 この側近は、張り切っているときが一番そそっかしいのだ。
「おおっ! 見たまえ。ちょうど一人入れるような木の割れ目。妖怪スポット『一ツ目杉』だ。これはくぐらねば!」
 太い幹のど真ん中に大きな穴が空いていて向こう側まで見える。なるほど、遠くから見れば『目』に見えなくもない。
 穴は人一人がやっと通れそうなくらいだが、木の棘が剥き出しで危ない。
「よし、僕が先に行くよ!」
 とリクオが言い出すとそこですかさずつららが、
「ダメですリクオ様! 私が先に行きます!!」
「つらら?」
 そのまま頭を穴に突っ込んだつらら。
 向こう側に行こうと体を伸ばす、しかしまるで重しを付けられたかのように一歩も動けない。
 これはまさか!敵の罠?!と慌てたつららは声を上げた。
「妖怪です! 妖怪の術ですこれは!!」
 外から見ればそれは滑稽っであった。
 つららが己の体温を保つ為に持って来たドライアイス入りリュックが入り口でつっかえただけで、妖怪の仕業でも何もなかった。
 頭を穴に突っ込んだ状態で手足をバタバタさせている姿は想像するよりもマヌケだった。
 さすがの清継と島もこれには呆れた様子だ。
 引っ張りだしたつららと向き合ってリクオは問いかけると、まるで今までの行いをもう忘れてしまったかのように意気揚々と応える。
「若を守るのが私の、役目でございます!!」
 気持ちはありがたい。けれど張り切ったつららが何か仕出かすたびに清継達の目が訝しそうにこちらを窺っていることに気づいているだろうか彼女は。
 きっと気づいていないのだろう。今、つららの頭の中はリクオを守ることで一杯なのだから。
「いーから! 僕は大丈夫だから」
「いーから? よくないですよ」
 途端につららの視線が鋭くなる。
「若は今人間で! 私しか側近いないんですもの! 青もいないし……」
 つらら一人いればその辺の雑魚妖怪は相手にもならない。だがここは武闘派で名高い牛鬼組の縄張り。力に関して、つららは自分の実力が足りないことをちゃんと自覚している。
 だからリクオの護衛は常に二人。常にリクオの側でリクオの身を守るのがつららで、敵を追っ払うのが青田坊、そういう役割なのだ。
 けれどそんな側近の心は露知らず。リクオはリクオで何も知らない友人達を守ることで頭が一杯だった。
 牛鬼組の牛鬼とは顔見知りだから、自分は心配いらないとどこかで思っているからかもしれない。リクオの心配は友人達が“何かの間違い”でこの山の妖怪に襲われないかということ。
「何かあってからじゃ遅いんだ」
「そーですけど……」
 なんだかやる気を削がれた気分だ。


◆ ◇ ◆


 これほど妖怪スポットを巡っているというのにまったく妖怪と遭遇しない。期待を裏切られた気持ちで清継はすっかり気を落としていたが、島としてはそっちの方がよかったようだ。
 そもそも島がついて来たのはつららがいるからで、しかしそのつららもリクオにべったりでつまらない。
 瑞樹さんを連れてくれば良かった、と清継は少しばかり後悔していた。
 彼女がいればおもしろい妖怪話の一つくらいはしてくれただろうに。
 「歩く妖怪辞典」と、冗談で言ったつもりはない。彼女はおもしろいぐらいに妖怪に関して博識で奇妙なぐらい詳しかった。憧れて止まない闇の主の次に憧れているのが瑞樹である。
 清継はなにも瑞樹が妖怪に関して博識だから、師匠と呼んでいるわけではない。
 清継が瑞樹に初めて出会ったのは小学生の時。例の「トンネル事故」にあったあとだ。あの件で妖怪とい存在があることを知り、闇の主に出会った清継はまず図書館に向かった。
 知らないことを知りたい、知識を得る為に本を読もう、ならば図書館へ、という思考の流れは普通のことであった。それに浮世絵中央図書館を選んだのは祖父のススメでもあったからだ。
 蔵書の多いことで有名なその図書館は、骨董収集が趣味の祖父が手に入れた古い物を調べるためにもよく利用する場所であった。
 清継の新たな興味を知った祖父が、あそこなら妖怪に関する珍しい書物が揃っていると教えてくれた。
 確かに清継が求める資料はたくさんあった。しかしまだ小学生で、いくら(自称)天才であった清継でも読めないような、まるで祖父の資料部屋にあるような古い本ばかりだった。
 持ち帰って調べようにも、それらは持出し禁止とされていた。なぜならそれは個人の所有物で、自宅に置けない本の置き場として図書館の倉庫を借りる変わりに、館内でなら閲覧客に見せることを許された物だから。
 それを聞いた清継はがっかりした。しかしすぐに思い直した。所有者ならばこれらを読めるはず。ならばその人に教えてもらえばいいのではないのか、と。
 カウンターにいた女性に頼んだ。引き合わされたの蔵書から見て年寄りだと思った清継の予想を裏切った若い女性、それが有沢瑞樹だった。
 清継がなによりも気に入ったのは、まだ小学生であった清継に対し、真剣に妖怪のことを教えてくれたこと。
 いつも無表情で最初は怖いと思っていたが「妖怪などいるはずない」「妖怪というのはそもそも幻覚で……」と最近の大人にありきたりな否定的な思考を押し付けるようなマネはせず、真剣に問えば、真面目に答えを返してくれる姿を見て、段々と憧れを抱くようになった。
 以前、問うた。
「瑞樹さんは、妖怪がいると思いますか?」
 と。
 そして瑞樹は答えた。清継の目を見て真っ直ぐに、
「いる」
 短い答えで、危うく聞き逃すところだった。けれど清継はしっかりとその耳で聞いた。けれど、と瑞樹は言葉を付け足した。
「それは私の『答え』。お前が求める自分の『答え』は、自分で見つけろ」
 と言ったあとに彼女は何かを思い出したように呟く。
「お前の場合は途中計算をする前に『答え』を見てしまったんだったな」
 清継が妖怪の存在を信じるのは、実際に目にしたから。闇の主、その存在を、その素晴らしさを周りにも伝えたくて、そしてまた会うために清継は妖怪のことを知りたいのだ。
 瑞樹は決して妄信的に物事を見る人間ではない。
 妖怪の存在を肯定していても怪しければ、時には否定を示し、嘘だと断言する。簡単に言えば、冷静で客観的に物事を見る。
 だからこその有沢瑞樹という人間は妖怪を求める清継にとって『良き師匠』であるのだ。




2012.01.13 明晰
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