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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ <弐>



朝の八時、浮世絵駅。
 泊まりということで大きな荷物を持ったリクオとつららが到着した時にはすでに他の全員揃っていた。出かける際、つららがあれこれと慌てていたせいで最後になってしまったらしい。
 先にカナが気づいて手を振る。
「リクオ君! こっち~!!」
 それに気づいて全員が振り返ると清継は話を一端止めた。
 リクオとつららは清継の話し相手を見て口を開いた。
「え!? み、瑞樹さん!?」
 旅行用のボストンバッグを肩にかけて柱に寄り掛かっていたのは、昨夜は屋敷に来なかった瑞樹であった。
「まさか清継君の言ってた顧問って」
「その通り奴良君! 清十字の顧問といえば瑞樹さんおいて他に誰がいようか! いやいない! 僕はこの団を結成する時からずっと心に決めていたのさ!!」
「昨日初めて聞いたけどね」
 ため息ついて瑞樹は柱から背を離した。
「さあアンタ達そろそろ行くよ。乗り換えが多いんだ、乗り遅れたら面倒だ」
 浮世絵駅、八時二十四分発新幹線、清十字怪奇探偵団乗車。
 席の手配などは全て清継が行っていた。席順は窓際にゆら、巻、鳥居でゆらの向かいにカナ、つらら、リクオ、そして通路を挟んだ向こう側に島と清継が向かい合わせで、清継の希望により清継の隣に瑞樹という順になった。
「っていうかさー。瑞樹さんって学校の先生でもないのに顧問になれるわけ?」
 巻の言うことは確かにそうなのだが、前提が清十字怪奇探偵団が正式な部活であったらの話で、清十字団は清継の作った同好会で顧問が教員である必要はない。そもそも顧問自体があまり必要ない。
「瑞樹さんは別名『歩く妖怪辞典』と呼ばれているんだ。わが清十字団には必要な人だよ。――ですよね! 瑞樹さん!!」
「そんな呼び名で呼ぶのはお前ぐらいだけど……。まあともかく、遠出に保護者は必要だろ。顧問になったつもりはないが、興味深いから付き合ってはやるさ」
 相変わらず無表情で瑞樹は淡々と応えた。
 斜め向かいに座る島はそれに圧倒されているところがあるが、清継は気にしておらず変わらず明るかった。こうして見ると、対照的な組み合わせだ。ホントに随分と清継は瑞樹に懐いている。
 いつもその隣は自分の場所なのに、とリクオは内心呟く。
 何故だろうか今はひどく清継が鬱陶しい。


◆ ◇ ◆


 しばらくして始まった清継の妖怪話。瑞樹は早々に本を取り出して一人読み始めている。ブックカバーがされているので何の本かは分らない。女子達も最初は 渋々話しを聞いていたがすぐにあきて、巻と鳥居は別の話を初めてしまった。すると清継は手作りのカードを取り出して「妖怪ポーカー」なるゲームを始めよう と言う。瑞樹は無関心、黙々と本を読んでいる。
 「妖怪ポーカー」と言っても実際にはインディアンポーカーの妖怪版といったところ。
 何回か勝負を続けているうちに菓子を賭けるルールが出来た。
 巻、鳥居、島、カナ、つららはまあまあ勝ったり負けたり、言い出した清継は連敗更新中でリクオは毎回最強のカードを引いて連勝中。その次に勝ち続けているのはゆら。
 十九回目。各々は山札から一枚ずつ引き、自分には見えないように額に置く。
「さあ、みんな。いいかな? それで」
 清継が物々しく訪ねると、全員が頷くのを見て、
「よし、行くぞ! せーの!!」
 勢いよく出されたカード。結果は、
「ぐぁああああ! また負けた!」
 清継は頭を抱えて叫び。
「くそー、またリクオと花開院さんの勝ちかよ」
 島は悔しくて項垂れる。
「ちくしょー、持ってけよ。賭けたお菓子持ってきゃいいだろ!!」
 巻は叫んだ。
 いつの間にか窓の外はビルの建ち並ぶ街並から山へと姿を変えていた。
 ゆらはさっそく手に入れた菓子を開けた。食生活が不十分な一人暮らしをしているうちに随分食に貪欲になってしまった気がする。最近食べ過ぎちゃうかなぁ、とは密かな悩みながらも、欲に素直な少女であった。
「ところでゆらくん。君は捩眼山伝説をしているかな?」
 カードを再びきりながら清継は訪ねる。
 捩眼山のある場所は浮世絵町より西側にある。だが生憎とゆらはその「捩眼山伝説」とやらを聞いたことがない。素直にそう答えれば、清継は残念がるどころか逆に笑う。
「そりゃー、ゆらくんが知らないのも無理はない! “妖怪先生”の様なマニアな方々にしか知られていないのだよ! 今日はそのすごい伝説とやらを聞きに行くんだ!」
 リクオはちらっと瑞樹を見た。
「それなら瑞樹さんが知ってるんじゃないの?」
 だって「歩く妖怪辞典」なんでしょ、と言ったのはカナだった。リクオも同じことを思ったのだ。当の瑞樹は相変わらず素知らぬフリ。代わりに清継が答えた。
「それではダメなんだよ! 家長くん!」
「へ?」
「瑞樹さんはおしゃった! 本当に妖怪のことを知りたいなら、人に聞いてばかりでなく実際に現場に向かい自分の耳と目を使ってモノを知れと! だから僕は 瑞樹さんに頼ってばかりでなく自分でこうして行動しているのだよ。そして何より、人の手を借りてでは闇の主に会う資格などない!!」
 どうやら清継の人を巻き込むこの行動力の半分は瑞樹にも原因があるらしい。
 瑞樹は僅かに視線を本からズラし窓の外に向けた。
 その熱意を認め色々と教えてきたが、今となって少し後悔が身に沁みた。瑞樹が振り返るとリクオと目が合う。そしてリクオにしか分らないような僅かな変化で苦笑を浮かべる。
「そのために“妖怪知識”をためなければ! さあ! ハイ、もう一度! 僕の考えた妖怪修行その一、『妖怪ポーカー』をやりまくろうじゃないか!」
「えー。まだやんの?」
「妖怪知識ったって、ただのインディアンポーカーじゃん」
 文句の口火を切るのはいつだって鳥居と巻である。彼女達は清継の取り巻きであったが、どうやらここ数日で清継に対する評価が大分変わったらしい。
「バカ言いたまえ! このカードはトランプとよく似ているが“絵”と僕の考えた“妖怪パワー”が書いてある! やっていくうちに、自然と妖怪が身につく優れものだよ! ねー島君!」
「は、はぁ……」
 島は何とも言えなかった。
 似ているどころか、いわば「妖怪トランプ」だと一体何人が思っただろう。
 ルールは簡単。自分から見えないようにおでこにカードを置いて、人の顔色を見ながらカードの交換をするか否かを決める。
 やっぱりただのインディアンポーカーじゃん、という鳥居のツッコミは無視。
「強い妖怪を持ってる人が勝ち! 引き当てる“運”が必要!! そして! 空気を読む“感覚”こそ最も必要なのだ!!」
 しばし全員が黙り込み互いのカードを見比べる。
 清継のカードを見てほとんどがガッカリとした表情を浮かべ、それを誤解した清継は余裕の笑みを浮かべた。
「せーの、そりゃ! 僕のは多分牛鬼<うしおに>だな!」
 出したカードを見る前に意気揚々と言う。
 二十回目。
 結局、インディアンポーカーもとい妖怪ポーカーの二十回目の勝敗はリクオの優勝、清継の最下位で終わった。全てぬらりひょん(十三)のカードを引いたリクオもスゴイが、納豆小僧(一)のカードしか引けなかった清継の運もある意味すごい。
 確かに“妖怪運”とやらが試されるゲームかもしれない。ただ企画した本人は残念なことに“運”も“感覚”にも恵まれてないらしい。
「奴良、お前“妖怪運”あるな。普通じゃねえぜ」
「ええっ?」
 感心する島の言葉にリクオは慌てて否定した。
 普通普通とは言っても、二十回連勝しかも全て同じカードでは確率的にも、恵まれていることは確かだ。
「あ、僕何か買って来るよ」
 車内販売を見かけ、リクオは話を逸らす。
 瑞樹が本を閉じて顔を上げた。
 買い出しは成績が一番最下位(つまりこの場合は清継)がすることになっていたはず。しかしリクオは満面笑顔で進んで使いっ走りに向かう。
 自ら進んでとはいえ、瑞樹は複雑な感情を抱くしかなかった。とりあえず誰かの宿題をやるということは止めさせたが、四分の一が妖怪ゆえに微妙に人とズレてる部分までは変えられない。
「奴良、やっぱい良い奴。じゃあ冷凍みかんプリーズ」
 と巻が言う。
 つららが何やら笑みを浮かべている。
(フフ、さすが若、妖怪の主となられるお方。妖怪のカードでさえも率いてしまうのですね! そして人望も熱い!)


(とか、何とか思ってるんだろうな)
 瑞樹は些か呆れた目をつららに向けた。彼女は熱い視線でリクオを追っていて自分に向けられている視線に気づかない。
 そんなつららにもう一人別の視線を向ける者がいた。つららの隣のカナだ。険悪な顔つきの彼女が何を思っているかもだいたい予想がつく。


(また……。また熱い視線ぶつけてる。さっきからそう、ずーっとこの娘、リクオ君に)
「リクオ君ファイト!」
 両手に溢れるお菓子を抱え直すリクオにすかさずつららが声援を送る。
(てゆーか、あんた誰!? そして何組なの!?)


(とか思ってるんだろうな。……やはり“正式入学”させるべきだったか? けど妖怪の戸籍を偽造するのは色々と面倒があるんだよな)
 さらりと聞き捨てならないことを考える。もちろん声に出してはいない。
 とりあえず家長カナには気をつけなければならない、と瑞樹は目を光らせた。
「瑞樹さん、はいどうぞ」
 目の前に緑茶のペットボトルが差し出される。頼んだ覚えはないのに気を利かせてリクオが買って来てくれたらしい。
「ああ、ありがとう。金……」
「い、いいよ!」
「そういうわけにはいかない」
 子供にお茶を奢ってもらうなんて、と瑞樹は小銭をリクオの手に握らせた。リクオは不満そうに拳を見つめるが、諦めたように大人しく小銭をポケットに突っ込んだ。


◆ ◇ ◆


 一方、浮世絵町と県外を繋ぐトンネル付近の丘の上で新幹線の走る線路を見下ろす一つの集団があった。血畏夢、百鬼夜行の旗を掲げたバイクの集団。青田坊がひょんなことからヘッドを務めることになった人間の暴走族である。
 朝、リクオ、つららと共に行こうとした青田坊だが、特攻服姿にリクオが眉を寄せて連れて行くことを拒否した。「残念ね、青」とつららの得意気な顔が今でも明確に浮かび、青田坊は悔しげに新幹線を見下ろして歯軋りする。
 足踏みするたび、地面が割れ、チームの連中が騒がしい。
「ちくしょう雪女のやつ! 側にいられずにして何が側近か! おいてめえら行くぞ!!」
「おー!!」
 彼らは人並みはずれた青田坊の怪力に惚れていた。彼がいれば血畏夢百鬼夜行は最強だと疑わず、彼らは青田坊の後ろに続いた。
 複数のバイクの集団が新幹線と不毛な競争を始める。新幹線と並んで走る暴走族に偶々内部から目撃した乗客は目を剥いた。


◆ ◇ ◆


 一方、浮世絵町のとあるお食事所。二人の男が昼間っから酒を仰ぎすでに五、六本の酒瓶を空にしていた。
「ちくしょぅー。なんで俺らは置いてけぼりなんだぁ」
「…………」
 燃えるような赤髪のたくさんのピアスを付けた男と、黒髪褐色肌のニット帽を深く被った男が頬をうっすら赤く染めつつ、不満を晴らすように同じタイミングでビールジョッキをテーブルに叩きつけた。ただそれだけでテーブルにヒビが入り、店員は冷や汗をかく。
 容貌の整った二人に女性客もやや惹かれていたが、二人の正体に気づくと逃げるように遠ざかる。そのため二人を中心に半径一m以内の席はがら空きだった。
「しょうがない……。俺たちには前科がある……」
「けどよぉ、てめぇは心配じゃねぇのかよ。“あそこ”は今、危ねぇんだぜぇ」
「無論心配だ……。しかしあの方の命令は絶対……」
「だぁああああ! なに、優等生ぶってやがるんだてめぇは! そんなで点数稼ぎなんざぁ、セコいんだよ!!」
 酒臭い息を吐き出し声を荒げ立ち上がると、勢いの押されて椅子が後ろに倒れた。胸倉を掴み上げられた褐色肌の男が赤髪の男を睨みつける。
「離せ……」
 険悪な雰囲気に店の者達が慌て始める。
「だいたいなぁ、てめぇはいつもいつもあの人の前で猫被りやがって! おめぇはそんな素直な奴じゃねぇだろうが!!」
「猫を被っているのはお前の方だろう……。お前こそ随従するような奴でないくせに……、あの人の前で良い子ぶって……」
「あぁん? ノロノロ言いやがって。俺はてめぇのそういう人を馬鹿にしたようなところが嫌いなんだよ」
「それはこちらのセリフ……。貴様の暑苦しい喋り方は耳に悪い……」
 互いに胸倉を掴み同時に引き寄せて強力な頭突きをかまし、額を突き合わせる。
「今日こそ潰してやる!」
「上等だ……!」
 言うが後。拳を振り上げ互いの右頬に捻り込む。拳圧で二人の周りの物が吹っ飛ぶが二人は少しもその場から動かない。すぐさまに次の攻撃を繰り出し、その度少しずつ地面にヒビが入っていく。
「や、やめてぇくだせえ! お二方!!」
 お食事所の店長が悲鳴を上げて懇願するが、今の二人は互いを吹っ飛ばすことしか考えておらず聞く耳がない。
「あぁ……店が……」
 彼らを止めることが出来るのはただ一人。しかしその人も今は町を離れていていない。
 店長は頭の猫耳をくたりっと倒して肩を落とした。
 あの二人は双子の兄弟である。普段から共にいるくせに、仲が悪く。彼らの兄弟喧嘩で被害を受けるのはいつだって周りであった。
 せめて、半壊程度で済むことを強く願った。




2011.11.23 明晰
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