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気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第五夜 清十字怪奇探偵団ミステリツアー ~捩眼山編~ <壱>



久々の出入りをして、朝露に濡れて帰って来たリクオは人間に戻って早々に寝込み、さらに疲労ゆえか四十度を越える熱を出した。無理して学校に行こうとす るリクオを抑え、首無、毛倡妓、下僕達はせっせと世話を焼いていた。何故か雪女は学校に行ってしまったが誰一人気にしてはいなかった。
 薬を持ってきた鴆は襖に寄り掛かり呆れた気持ちでリクオを見下ろす。
「情けねぇのな、昼のおめぇはよ。ちょっと気負いすぎて発熱か」
「……鴆に言われたくないよ」
 ちょっとしたことですぐに吐血する鳥妖怪が何を言うかとじと目で見る。
「今はおめぇの方が重症だろうが。借りがあんだ、俺にはよ。期待してたんだよ。あーあ、朝になればまた元通りか」
 身を乗り出し鴆は問う。
「なあ、本当に出入り行ったことも覚えてねぇのか?」
「それは……」
 あの時、夢と現の境でリクオは……。
 しかしそれを言葉にするにはまだ躊躇があり、リクオは口を閉ざす。リクオが何も言わないことを自分なりに受け取った鴆は大きなため息を吐いた。正直、リクオの変化には心が躍ったが鴉天狗から人間のリクオは妖怪の時のことを覚えていないと聞いた時はショックを受けた。
「俺はな、あのお前に三代目を継いで欲しいと思ってたんだぜ……」
 リクオは視線を逸らし天井に向けた。
 話が途切れたところで毛倡妓が鴆に退出を促す。
「ほら鴆様。リクオ様は安静にしてないと。あなたこそ寝てなくていいんですか?」
「家が修理中で渡り鳥なのよ」
 鴆の屋敷は先日、下僕の裏切りにあい焼けてしまい、現在はその修復中である。
「四時か……。そろそろ会議だな。行くわ、じゃあなリクオ」
「あ、待って鴆君」
 伝えたいことがあって慌てて上体を起こし呼び止めるが、そこへ慌ただしい足音と共につららが現れ鴆を突き飛ばした。
「若ー、すいません!」
 縁側に転がる鴆に一度も目を向けず、気が抜けて再び布団に倒れたリクオの手をとる。
「私としたことが、側近なのに! 若が学校に来ていない事を知らず普通に登校してしまいましたー!!」
 まん丸の黄色瞳から涙をあふれさせる。下に落ちたつららの涙は瞬時に氷の玉へと変わる。
「この雪女、いかなる罰も、ヒッ!?」
 つららの冷えた肌にじんわりと伝わる熱。それはつららの耐えられる温度を超えていた。つららは悲鳴を上げ慌てて枕元の水の入った桶に手を突っ込んだ。
「つらら!? 大丈夫!?」
「あんた下がってなさい!」
 病人に心配され、雪女に風邪の世話はムリだと毛倡妓はつららを下がらせようとする。しかしつららは「自分が責任持ってお世話をー! あ、熱いっ!!」と頑なだ。
 起き上がらない鴆の存在など忘れ去られていた。


◆  ◇ ◆


 今日、一番街のとある建物が空きビルとなっていた。人々は変わらない日々を過ごしている。毎日のようにそこに通っていた女達も、普通に何事もないかのように他の店へと行く。
 ここは旧鼠組がやっていたホストクラブ。おそらくこの辺りで一番の売り上げを誇っていたであろう店が一夜にして消えても、誰一人として気にするものはいない。妖怪の店であるゆえだ。
 建物の前を通り過ぎて瑞樹は物思いにふける。
 破門された旧鼠組が回状の要求をするとは、普通に考えればおかしなことだ。『回状を廻せ』という指示は、そもそも破門した組の者が言っても意味がない。
 それに今回の人質騒動は、鼠にしては頭を働かせたやり方であった。リクオの心をうまく動かし、上手くいっていたら組にも大きな打撃を与えた可能性がある。しかも内部からの手助け。その何者かはおそらく今頃行われている今日の幹部会議にも参加しているのだろ。
「……黒幕か」
 呟いて瑞樹は図書館とは反対の方向、自宅でも、奴良組屋敷でもない場所に向かった。
 鼠の後ろに誰がいようと、リクオに危害を加えるなら只ではすまさない。静かに片鱗を見せる怒りを胸に潜ませ、瑞樹は夕日を睨みつける。
 ポケットの携帯が以前若菜が設定してそのままの軽快なメロディーを歌い始め瑞樹の気を逸らす。
「――もしもし」


◆ ◇ ◆


 清十字団が休んだリクオの見舞いに屋敷にやって来た。一応メンバーである二人の少女、鳥居と巻は初めて来るリクオの家を興味津々に見る。その中にゆらの姿はない。彼女は新しい制服を買いに行ってしまったそうだ。
 突然の訪問であったが妖怪達は気を使って姿を隠してくれている。別の部屋で会議が行われているから大人しいというのもあるが。
 とりあえずリクオはゆらがいないことに一安心。つらら特製の大きな氷嚢を額に乗せたリクオを皆で囲む。
「大丈夫? リクオ君、薬飲んだ?」
「あ、まだ」
 清継は自力で直せなどと言っている。ホントに見舞いにきたのかわからない物言いだ。
「情けない奴ねえ。カナやゆらは妖怪に襲われも学校に来たっていうのにねえ」
「ねー」
 枕元の二人の言葉に、リクオはカナに笑いかけた。
「カナちゃん、あのあと無事に帰れたんだね。良かった」
「ん?」
 何か引っ掛りを感じたが、熱で顔を真っ赤にするリクオを気づかって、薬を貰って来ると立ち上がった。面倒見の良い幼馴染みだ。
 この間の探索でだいたい屋敷の構造を知ったカナは隣の部屋に向かう襖に手を掛けようとした。しかしカナが触れる前に襖が向こう側から来た人物によって開かれる。
「お待たせ~、リクオさ、」
 笑顔で開けた先にカナの顔を見て、湯のみを乗せたおぼんが手から滑り落ち、湯のみが足元で砕けた。
「はぅわ!? 家長!?」
「あれ?」
「及川さん!? なんでここに!?」
「ははーん! さては先にお見舞いに来たな? お茶まで持ってきて気がきく娘だ」
 的をかすった推理に隣で島がショックを受けていた。心なしリクオの顔が青い。
 つららは今、理性を総動員させ冷気を抑えようとしているが、僅かに出て足元をひんやりとさせる。
「オホホ……」
(落ち着け私。全滅させて誤魔化そうなんて考えちゃダメ!!)
 不穏な気配を感じ取ったのかリクオがフォローにまわる。
「そ、そーなんだよ皆。ほんの十分早く彼女は来ただけで」
 せっかくなので清継の推理に便乗させてもらう。
「そーですよ、途中までは一緒だったでしょ」
「あー? そうだったかもな」
 二人の言葉に流され記憶が誤魔化される。だが、一人だけ、カナだけは違った。
 さきほどカナが部屋に入ろうとしたとき、リクオは「つらら」と言っていた。初対面かと思えば知り合いのようで、一人でリクオの家に訪れたり、親しく名前を呼び合う仲だったり。二人の関係は疑わしいものである。
「さぁて! 看病はさておき! ゴールデンウィークの予定を発表するぞ!!」
「へ?」
 リクオだけでなく、島達も何も聞いていなかったのか驚いていた。
「ご、ゴールデンウィーク? 週末からの?」
「そうだ! 君たち暇だろ、アクティブな僕と違って!!」
 勝手な決めつけである。
「僕が以前からコンタクトを取っていた妖怪博士に会いに行く!!」
 清継は立ち上げたサイトを通じて全国の妖怪好きとコミュニケーションを取っていた。そして昨日、ようやく妖怪博士から良い返事を頂いたのだ。
「え!?」
「な、何それ!? 合宿!?」
 しかも団員は強制参加。
「場所は僕の別荘もある捩眼山! 今も妖怪伝説が数多く残る彼の地、妖怪修行だ!」
 女子は急な予定にブーイングするが、清継は温泉の一言で見事沈めた。しかしカナはそれで納得するわけにはいかなかった。
「私、子供だけの外泊はするなって朝お母さんに怒られたんだけど」
 理不尽な事情とはいえ、結局朝帰りになってしまいカナの両親は大怒り。しばらくお小遣いまで下げられた。昨日の今日で友人同士だけでの外泊と言えばまた雷が落ちる。
「フン! 心配ないよ家長くん! ちゃんと保護者同伴だからね!」
「保護者?」
「僕らの顧問さ!」
 全員は互いに顔を見合わせ首を傾げた。
 清十字怪奇探偵団は清継が勝手に立ち上げたいわば同好会のようなもので、普通の部活のように顧問はいない。ならば清継は一体誰の事を言っているのだろうか。




2011.11.17 明晰
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