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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第四夜 猫と鼠 <参>



気がつくとハムスターを飼うためのケージのような檻に捕われていた。
 夜明け近くの物静かな広場の真ん中に檻に閉じ込められた二人の少女と檻の外のホストを装う男達。
 少女が気がついたことに気がついた旧鼠は豪華な椅子に一人座って命短し少女を嘲笑った。
「よう陰陽少女。どうだ? ネオンの光の中処刑される気分は?」
「な、処刑?」
「そうだ。あの三代目のガキが約束を破ったらな」
 三代目と言われてもゆらには何のことだかさっぱり分らない。檻に閉じ込められ周りを取り囲むにやつく男達を見て最悪な状況を予想する。
「旧鼠、アホなことはやめるんや! えぇ加減にしい!」
 こんなの状況でもゆらは強気を張った。共に閉じ込められたクラスメイト、カナだけでも逃がさなければと強い使命感を持って。
 そんな威勢が鼠達は気に入らなかった。鼠の一人がゆらの胸倉を掴み、鉄格子に引き付ける。
「おい女、その名で呼ぶなや。この街ではな……星矢さんって呼べや!!」
 胸元が引き裂かれ、少女の未成熟な柔肌が露になり、ゆらはさっと顔を赤らめしゃがみ込んだ。
「ゆらちゃん!」
「式紙持ってないてめーはただの女だよ」
 カナはゆらの肩を抱き、震えながら男を睨んだ。
 旧鼠は腕時計を見て、そろそろ約束の時間が近いことを確認する。本当は約束なってはなっから守る気はない。来るにしろ来ないにしろ少女達が旧鼠の餌になるのは決定事項である。
「知ってるか? 人間の血はなぁ、夜明け前の血が一番ドロッとしててうめぇのよ。ちょうど、今くらいのなぁ?」
 肩を寄せ合う少女達を見下ろして旧鼠は舌舐めずりをする。ホストクラブで一体何人の女を喰らったことだろう。人の姿をしていながら旧鼠達の目は完全な飢えた獣であった。
 檻の中に二三人の男達が入って来る。ゆら達は逃げるが狭い檻の中では限界がある。
 自分は陰陽師、妖怪<こいつら>を倒さなければとゆらは思った。けれど旧鼠の言った通り、式紙を奪われたゆらにはカナを守る術も妖怪と戦う術もない。式紙さえあれば、そう思うのに今はただの非力な小娘。じわりと涙が浮かび、ゆらは迫りくる男達の手を恐れ悲鳴を上げた。
(誰か、誰か、助けて!!)
 少女達に鼠共が襲いかかったその時、不自然な霧が広場を包む。
 鼠共が気づいて振り返ると霧の中に大きな影が浮かんだ。
「へへへ……」
「久しぶりの出入りじゃぁ!」
「暴れるぞー」
 あらゆる妖怪達が一つの固まりとなって存在していた。
 数年振りの出入りに妖怪達は興奮していた。
 妖怪の群れの中に天敵の化猫組の姿を確認すると鼠達の顔に動揺が走る。
「化猫組よ。あいつらか」
 鴉天狗が問うと良太猫は頷いた。
「ああ。憎い、鼠共だ」
 突如現れた妖怪の集団、百鬼夜行に檻の中のゆらは唖然とする。話に聞いていたが実際に目にするのはこれが初めて。まさか、これほどの妖気の固まりを実感する日が来るとは思わなかった。
 唖然としながらも、群れの前の真ん中に立つ妖怪の総大将らしき銀色の長髪の男を見つめる。その後ろで、カナも幼い頃たった一度だけ見たことのあるその人の姿に驚いた。
 青田坊は嬉しそうに笑みを浮かべる雪女に気づいた。
「どうした雪女。出入りがそんなに楽しいんかい」
 そう言う青田坊も声が弾んでいた。リクオが幼い時から願っていた夢が実現したようなものだ。リクオの側近を務める彼らにとってリクオが率いる出入りに心が弾んでもしょうがない。
 夜リクオの頼もしい態度に雪女は心ときめかせていた。
「待たせたな、鼠共」
 百鬼を背に旧鼠を前に悠然な態度で口を開いたリクオ。旧鼠達は彼がリクオであることに気づいていない。
「何もんだぁテメエ!」
「本家の奴らだな」
「三代目はどうした!」
 雑魚共の言葉に青田坊達は思わず笑いそうになった。
「いや、あんなガキどうでもいい」
 旧鼠が話し始めた時、リクオは傍らの首無と青田坊に目配せした。
「回状を見せろ!」
 二人は頷き、鼠の目を盗んで動いた。
「ちゃんと廻したんだろーな!!」
「……奴が書いたのなら破いちまったよ」
「んだと!? てめぇ!!」
 訳の分らない状況を黙って見ていたゆら達のいる檻の中に何かが入り込み、二人は振り返った。旧鼠達はリクオに気を取られ檻の中でのことに気づかない。
 檻の鉄格子がゆっくりと捻られる。
「ならば約束通り殺すまでだ!」
 と旧鼠は檻を叩くが、少女達の反応がないのとおかしな音が耳に入り、ん?、と振り返った。すると檻は抜け殻、青田坊が派手に檻を破壊し、その間にゆら達は首無に先導され外に出ていた。
 面白いくらい事の運びが良く、リクオは笑みを浮かべた。
「どうする夜の帝王? 人質<ねこ>が逃げちまったぜ?」
「チッ――舐めやがって、てめぇらみんな皆殺しだ!」
 その言葉を引き金に百鬼と鼠の全面衝突。
 轟くほどの雄叫びを上げ、あるモノその長い胴体で相手を締め上げ、あるモノは自慢の爪で引き裂き、あるモノは燃えさかる己の体で相手を焼き殺す。平和な日常に身を置いておいても彼らの本能、本質は変わらない。久々に彼らは思う存分暴れる。
「青よ! どっちか多く鼠退治出来るか勝負しようか!」
「ガハハハ、黒。お主がワシに勝ったことがあったかぁ?」
「なにぃ」
 一匹が隙を狙って黒に不意打ちを仕掛ける。が、


 ――暗黒黒演舞!!


 黒田坊の袖から大量の武器が飛び出し鼠を貫く。
「グエッ、卑怯な……」
「フン。この私には最高の褒め言葉。暗殺破戒僧、黒田坊とは私のことよ」
 っと、決め台詞を決めている間に青田坊が前に出て拳を振るった。
「カッコつけてるうちにいっぱい倒す!」
「ああ!!」
 一方で弱そうな女に狙いを定めた鼠は、爪を剥き出しに襲いかかった。


 ――呪いの吹雪、雪化粧


 向かってきた敵を雪女は氷付けに、鼠嫌いの毛倡妓は笑いながら自慢の髪を伸ばし敵を潰した。
 百鬼の勢力は圧倒的に鼠を蹴散らかし、旧鼠は手下が減っていく状況に後ずさる。
「なんでてめぇら、誰の命令で動いてる、百鬼夜行は主にしか動かせねーんじゃ」
 また気づかない愚かな鼠に良太猫は言う。
「何言ってんだ。目の前にいるじゃねえか」
 旧鼠の目の前、良太猫の後ろにいる男の姿にそんなまさかと旧鼠は目を見開く。
「この人こそが! ぬらりひょんの孫! 妖怪の総大将になる御方だ!!」
 人質をチラつかせ大人しく要求に従う姿勢を見せた少年の姿とはまるで違う、百鬼を背負い立つ姿に旧鼠はもう動揺を隠せない。後悔が旧鼠を襲う。
「やっぱり、あの時殺しておけばよかったんじゃねえか!」
 今は殺すなと言った“ボス”に対し旧鼠は恨み言を叫び、鼠の本性を現し牙を剥き出しにリクオに襲いかかった。
「追い詰められて牙を出したか。だが、たいした牙じゃないようだ」
 ふっと手に出し大きな盃。入れられた酒に息を吹きかけ波紋を生む。すると青い炎が生まれ、旧鼠に巻きつく。
「てめぇらが向けた牙の先。本当に、闇の王になりてえなら、歯牙にかけちゃならねえ奴らだよ」
 青い炎に包まれる旧鼠を横目にリクオはカナ達と良太猫達に視線を向け、再び旧鼠を見る。
「おめぇらは、俺の“下”にいる資格もねぇ」


 ――奥義、明鏡止水“桜”


「な、なんじゃこりゃあ!?」
 旧鼠は身を燃やす炎に悶え苦しみ、叫んだ。 
「その波紋が鳴り止むまで、全てを燃やし続けるぞ」
 限界を越えて旧鼠の体が塵と化す。
「夜明けとともに、塵になれ」
 夜が、明けた――。


 立ち去ろうとする彼の背に向かってゆらは叫んだ。
「ま、待ってぇ! お前が妖怪の主か!!」
 リクオは立ち止まりちらっとゆらに視線をよこす。
「お前を倒しに来たんや! 次ぎ会うときは、絶対倒す!!」
 リクオはゆらの肩にかけられた羽織を見てフッと笑みを浮かべる。
「せいぜい気をつけな。首無、お前女に甘いな」
 彼らの姿は朝霧の中に消え、妖怪に助けられたという事実がゆらの心に小さな波紋を生んだ。


◆ ◇ ◆


 なんとか百鬼から逃れた数匹の鼠達は夜が明け朝陽に輝く街中に逃げ込んだ。
「はぁ、はぁ――ここまで来れば……」
「おいおい、大将見捨てて逃げだすったぁ根性ネジ曲がった鼠共だな」
 誰もいない路地裏に逃げ込んだはずと鼠達は驚き振り返った。二人の男が朝陽を背に立っていた。逆光のせいで顔は見えないが体から滲み出る妖気から彼らが妖怪であることに気づく。
「所詮はその程度の妖怪……」
 物静かな声で黒髪褐色肌の男が言う。
 相手が二人と見て六人の鼠共は焦りを消し、余裕の笑みを浮かべる。
「なんだてめぇら! 三代目の下僕か!」
 燃えるような赤髪の男はその言葉に眉間に皺を寄せて眼光鋭く鼠達を睨みつけた。
「あ゛? んで俺らがあんなガキの下僕にならなきゃなんねーんだよ」
 一気に膨らみ上がった妖気に鼠共は尻込みする。獣の本能が逃げろと訴える。もともと鼠は危険回避能力は長けた動物である。
 しかし、彼らの本能が察知出来ない“それ”がすぐ後ろにいた。ふと湧いて出たような匂いに鼠共は振り返った瞬間、
「え、」
 六人全員の体はその一瞬で地に沈まされた。一人だけ意識を僅かに保った鼠が自分達を沈めた存在を見上げる。
「……な……に……」
 “それ”は鼠の顔を踏みつけて口を塞いだ。
「鼠は一匹残らず消す」
 女の声。意識を失う前、鼠にはそれしか分らなかった。
 足をどけた途端、鼠共の体を雷が貫き一匹残らず炭となって風に吹かれて散った。
 雷撃を放った赤髪の男は恭しく己の主に頭を下げる。
「御自ら手をくださなくとも……」
 褐色肌の男が不満げに言うと主は冷めた目を向けた。
「あの娘達が攫われた時、お前たちが動いていればこんな後始末しなくても良かったんだがな」
 気のせいかいつもより冷めた口調で男達は怯む。赤髪の男はワザとらしい明るい声で話題を変えた。
「いやぁ、それにしてもあのガ、じゃなかった。孫のやつ、人間の時とはまるで態度が違うんすね。妖怪になった途端態度がでかくなって」
「……それは違う。あの子は何も変わっていない」
 主の目が優しげに細められ、男達はここにいない孫に嫉妬する。
 そう、何も変わっていない。確かに一見、言葉も態度も違うけれど人間の時もあの子は彼女達を助けに行きたがっていた。力がないから、人間だから、そう自分の非力さを認めあの子は妖怪になった。彼女達を助けに行くために。
「あの子は、表現の仕方が違うだけで、人間でも妖怪でも本心<もと>は同じ。もとは一人なんだから根が同じなのは当たり前だけれど」
 “瑞樹”は愛おしそうに自分の手に触れた。


◆ ◇ ◆


 夜明けとともに、事が終わった後に出入りの報せを聞いた鴆は奴良組に乗り込んだ。
「おぅ鴉!」
「鴆様?」
 床板を強く踏み込み大きな足音を立てて歩く。
「リクオの奴ぁどこだい、一言話があんだ。出入りがあったそうじゃねーか! 何で俺を呼ばね……」
 途中で言葉が切れたのは、興奮のあまりまた血を吐いたからだ。
 リクオの部屋の前の床が赤く染まり鴉天狗は慌てた。血を吐きながらも鴆はリクオに文句を言ってやろうと今にも部屋に乗り込む勢い。
「ちくしょう、約束したのによ。若に文句を……グホォ」
「わー! 誰か止めろー! 若が血塗れになるぞ!!」
 と鴉天狗の言葉に応じるよう鴆の背後の廊下の角から瑞樹が姿を現し、足音も立てず気配も決して鴆に気づかれぬようその後ろで立ち止まり、鴆の頭に容赦ない踵落としを決めた。
「グワッ! ゲホッ!!」
「ぜ、鴆様ぁあああ!? み、瑞樹殿、何を……」
 鴉天狗を視線で黙らせ、鴆の胸倉掴んで引き寄せる。
「おいこら。リクオは今疲れて寝てんだよ。叩き起こすようなマネしようものなら、私が先にてめぇを叩き潰すぞ」
 脅しをかける時も無表情で、逆にソレが威圧的で、鴆は血を吐きながら顔を青くして慌てて何度も何度も頷いた。瑞樹はそれを認めると、鴆の襟を掴んで別の 部屋に連れて行くべく引き摺っていた。今にも死にそうな顔で引き摺られて行く鴆を鴉天狗は気の毒そうに見送り、リクオが血塗れにならずにすんで心の中で瑞 樹に礼を述べる。
(鴆様、どうかご無事で)




<第四夜 猫と鼠 終>
2011.11.13 明晰
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