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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第三夜 転校生と奴良組訪問記 <参>



少女は奴良組屋敷の大浴場の扉を思い切って開けた。けれど期待していた気配のもとは影も形も見えない。少女は湯の張った浴槽の中を確認せずにその場を後にした。
 人の気配が遠ざかり浴槽から顔を出した妖怪達はほっと胸を撫で下ろした。


「ここから妖しい臭いがする!」
 開かれた扉の先は神々しく輝く金色の仏像が並ぶ仏間。立ち並ぶ仏像に紛れる塗仏に目玉を飛び出させないようにリクオはこっそりきつく言いつける。
 ゆらは一体の仏像に目をつけた。一見ただの仏像、しかしその中は空洞で小さな妖怪達が隠れているのだ。リクオはすぐに気づいたが、外見は普通の仏像なためゆらはなかなか気づけないでいる。
「す、すごいでしょそれ。悪趣味だよねえ、じいちゃんがさ……。触るとじいちゃんに怒られるからさ。何もいないし、戻ろうよ、ね!」
「そう、ね……。とりあえずお札貼っとく」
 仏像越しであったから消えることはないが、動くことも出来ずに妖怪達は助けを求める声を小さく上げたが、今ここで剥がしたら皆に不審がられるためにリクオは、ごめん後で!、と心の中で頭を下げた。
 仏間は後にしてゆら率いる清十字団は好き勝手に移動しまわり、気になる所があればゆらは、とりあえず、と呟いて札を貼りその度隠れてる妖怪が悲鳴を上げ、見つからないか、バレないかとリクオはハラハラと気苦労が絶えない。
 廊下を走る音が聞こえるたび怯えて肩を震わせる雪女がいたが、幸いに彼女の部屋は見過ごされた。
 次にゆらが音を立てるほど勢いよく襖を開けた部屋を見て、リクオは「あっ」と呟いた。
「なんか、何もない部屋だね」
 ここは瑞樹が寝泊りしている部屋だった。カナの言うとおり、箪笥に着替えなどは揃っているがソレ以外にはほとんど物がなく静かな部屋。もっともこの部屋 の利用者は若菜やリクオの部屋に出入りすることが多いためあまりこの部屋にいることはないし、リクオもあまり入らない。自分の家の部屋でありながら母親や 下僕達とは違う女の人の部屋だから変な遠慮があった。
 ゆらは部屋の中をじっくり見回し妖気を探す。実際に瑞樹の部屋に何匹が逃げ込んで物陰に身を潜めていた。
 たまたま何気なく机の上に視線を向けた清継は、置いてあった本を見て驚きの声を上げた。
「これは!!」
「なに!?」
 まさか見つかったかとリクオが慌てて清継に注意を向けると彼は上半身を屈めて本に触れるか触れない微妙な位置で手を止めて体を震わせていた。
「これは、かの有名な『東國冬彦 怪談秘録』ではないか!!」
 素手で触るのも恐れ多い、しかし目の前にはいくら金を積もうとも手に入らない妖怪マニアなら喉から手が出るほど欲するとされる幻の本がある。
「そんなにすごい本なんすか? 清継君」
「当たり前だろ島君! これは、江戸時代の作家、東國冬彦が死後、幽霊となってまで完成させたというこの世で三冊しか存在しない幻の本なんだぞ!」
 勢いに押され島は後ずさる。


 “東國冬彦作『怪談秘録』全三巻”
 “幽霊が書いた事からその名は昔から妖怪マニアの間では有名な品物。実物を目にした者はほとんどおらず、幻の本とされている”
 “また、その本は特別な力を持っていると言われている”


 昨夜瑞樹が読んでいた本がそれほど価値のある物だと知らなかったリクオは思わずその本を凝視した。
「奴良君、その幻の本が何故君の家に!?」
「あ、いや、それは……」
「それは私のだ」
 背後から声が聞こえて突っ立っていたカナは弾かれたように振り返った。足音も気配もなく、いつの間にか立っていた瑞樹。
 清継の前から本を取り上げると、勝手に仮部屋に侵入した彼らを見下ろす。たまたま直視した島は見下ろす目に足がすくむ。
 まるで感情がないかのように人形のようにぴくりも動かない表情は、なんともいえない威圧感があって恐怖さえ感じる。本人はそんな相手の反応にも慣れた様子で、部屋に戻るよう注意するだけしてそのまま若菜のもとに戻ろうとした。しかし。
「待ちい」
「ゆらちゃん?」
 訝しそうな目つきをしてゆらが呼び止めたのをカナが不思議そうに呟く。
「うちにも、花開院の書庫にも『東國冬彦 怪談秘録』の一冊がある」
「本当かい! 花開院さん!」
 清継が喜びの声を上げるが無視される。
「けど、その本は限られた人間でも頭首の許可さえなければ見ることが出来へん」
「……何が言いたい」
「花開院<うち>の本は何代か前の頭首が退治したある妖怪から手に入れた物と言われとる。他の二冊も同じように人ならぬ者達の手を渡ってるはず、ただの一般人が手に出来る代物やあらへん。あんた、一体何者や」
 瑞樹は目を細め、向き直って改めてゆらを見た。
 鈍い娘かと思ったら以外と鋭いところもあるようだ。否、これは単に得体の知れぬ妖気に囲まれ警戒心が強くなっているためか。だがまだ幼い。
「蒐集は趣味の一環、全国を回って私はあらゆる本を手に入れた。それだけのこと。手に入れた経緯まで教える気はない」
 それ以上踏み込むことは許さない、と言外で呟けばゆらはぐっと言葉を呑み込んだ。
 瑞樹の気迫には妖怪の畏れに似たものがある。妖怪でさえ彼女の見据えられれば畏れを感じるくらいだ。
「部屋に戻りな」
 その言葉に従うしかなかった。
 結局彼らは妖怪を見つけることはできないままに最初の部屋に戻る。
 空気を読んでくれた下僕達に心で感謝し、あとで妖銘酒でも手配してやろうとリクオは思った。と茶を啜ってほっと一息ついたところで、空気を読まない妖怪が一人、襖を開けた。
「おうリクオ、友達かい」
 リクオの祖父、妖怪の総大将ぬらりひょんのご登場にリクオはひっくり返った。
「おーおー、めずらしいのう、お前が友達を連れて来るなんて。飴いるかい?」
 呑気に飴を配ってる祖父にリクオは今日一番の大量の冷や汗をかいていた。これでバレてしまったら今までの苦労が全て水の泡。
 ゆらがじっと見ているが
「どうぞ皆さん、これからも孫のことよろしゅうたのんます」
 どう見ても孫思いの良き祖父の笑顔に絆されたようだ。
「任して下さいお祖父さん!  しかしこの飴まずいっすねえ!!」
 と清継がマズさで評判の飴を口の中で転がしながら元気よく応えた。
 さすが、人の家に勝手に上がり込むのが得意とするぬらりひょん。どうやら気づかれてない様子にリクオは安堵する。しかし、目の前に目的がいるというのに気づかないというのもなんだか複雑だ。
 こうして清十字怪奇探偵団の奴良組訪問は幕を閉じたわけである。


◆ ◇ ◆


「まったく……、ワシを見習わんかい。たかが陰陽師の小娘一人に大慌てしおって」
 緊張と隠れるのに疲れた妖怪達が大広間で伸びており、上座に腰を下ろしたぬらりひょんは呆れた。
「ワシなんか大昔は陰陽師の本家行って飯食って帰って来た事もあったぞ」
「さすがにそれは総大将しか出来ません」
 と木魚達磨がつっこむ。
 普通の妖怪なら滅されることを恐れて陰陽師の本家になんか冗談でも行かないものだが、さすがは妖怪の総大将ぬらりひょんといったところだろ。
「とはいえ、皆も妖気くらい消したり出来なくては。“付喪神”なら物にもどるとかいくらでも方法があるだろうに」
 そこで反論したのは“付喪神”以外の妖怪達。
「じゃー、ワシらはどーしたら……」
「人型になれ!」
「首が切れている人は……」
「くっつけろ!」
 リクオの人間との付き合いについてを考え、これからの対策について色々とわいわい相談している隅で疲れたリクオが毛倡妓に扇がれていた。
「ご苦労様だったな」
 顔上げると冷や茶を持ってきた瑞樹がいた。礼を述べて茶を受け取る。
「瑞樹さん、ごめん」
「ん?」
「勝手に部屋入って」
 まるで気にしていなかったようで、ああ、と呟いたあと、別に、と応えて瑞樹は夕食の準備がある毛倡妓と交代して団扇を扇ぐ。
 いつも通りで気が抜ける。本のことでゆらと話している時、怒ったと思ったんだけどと首を傾げる。
「なんか花開院さんに怒ってなかった?」
「怒ったというか……。私はもともと花開院の人間が好きじゃないんだ」
「花開院さん以外に会った事があるの?」
 そういえば花開院家について詳しそうな素振りがあったことを思い出す。
「前に京都に行った時に一人な」
 よほどその時の人物の印象が悪かったのか、険悪な雰囲気を出し回りの小妖怪達を怯えさせた。瑞樹は感情が解りにくいとみんな言うが、リクオや若菜の前だと変わらず無表情を保っているが、感情は分り易くなる。
 さて、と立ち上がった瑞樹は夕餉の手伝いをしてくると言って空になったコップを持って行ってしまった。
 玄関の方から黒田坊、青田坊の声が聞こえる。彼らは鴆屋敷の修理に出かけていたのだ。出迎えるつららの元気な声。彼女は本当に分り易い。ゆら達が帰った 途端に部屋から出て来ていつもより機嫌良く手伝いを始めたのだ。今は滅された妖怪がいないか確認の点呼をしている。一段落ついて一安心したのはリクオも同 じだしその気持ちも良くわかるが、きっと彼女は明日も学校に行けばゆらと顔を合わせることを忘れているのだろう。
 ふっと息を吐いたリクオに組みの目を盗んだ一匹の鼠が声をかけた。




<第三夜 転校生の少女と奴良組訪問 終>
2011.11.04 明晰
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