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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第三夜 転校生と奴良組訪問記 <弐>



清継の家のプライベート資料室。成金感バリバリのその部屋はもともとは大学教授である清継の祖父のもので、今は場借りしているらしい。
 その部屋の一角にソレはあった。おどろおどろしい雰囲気を放ち、いかにもというような細く微笑む日本人形。
 信憑性が高いと言う清継は、その人形と一緒に手に入れたかつての持ち主の日記を読み上げた。


『2月22日 
 引っ越しまであと7日。
 昨日、これを機に祖母からもらった日本人形を捨てることにした。
 といっても、機会をうかがってはいたが本当は怖くてなかなか捨てられなかっただけで、雨が降っていたが思い切って捨てた』


 ちらりと見ると人形が血の涙を流していてリクオは目を剥いた。


『すると今日、なぜか捨てたはずの人形が玄関に置いてあり、目から血のような黒っぽい……』


「ってどうしたリクオ!?」
 慌てて人形にタックルをかましたリクオに全員が驚いた。
「あ、あはは、ごめん。聞いてたらなんかかわいそーで」
「んなアホな!」
 なんとか誤魔化しながら涙を拭う。困ったことにどうやら本物のようだ。
 清継がリクオをどかして人形を確認するが、なんともない様子にほっと安心する。
「まったく、貴重な資料に。名誉会員から外してしまうよ」
 いつの間にかリクオの立場は団体の名誉会員になっていたらしい。なんとも言えずリクオは渇いた笑いを零した。


『2月24日
 彼氏に言って遠くの山に捨ててきてもらった。
 その日の夜、彼氏から電話「助けてくれ、気づいたら後ろの座席にこいつが乗ってた……」』


「え? ど、どーなるの?それで」


『考えてみれば昔から変だったこの人形』


 妖気を放ち始めた人形の髪がもっさりと伸びる。


『気づけば髪が伸びているようにも見えた』


 つららが凍らせることを提案したが、人前でそれはできない。


『2月28日
 引っ越し前日。
 おかしい。しまっておいた箱が開いている』


 鬼の形相に変わった人形が日本刀を片手に切り掛かる。
「日記を読むのやめてぇえええ!!」
 リクオが声を上げた瞬間、人形に数枚の紙が飛びかかり、人形が爆発した。
 驚いて振り返ると、一人の少女、転校生のゆらが紙を構えて立っていた。
「浮世絵町、やはりおった。陰陽師、花開院家の名に於いて妖怪<もののけ>よ、あなたをこの世から滅死ます!」
 爆発し床に落ちていく人形を見て、ゆらをのぞく全員が目を見開いた。
「陰陽師だって!? 花開院さん、今、あなた確かにそう言ったんだね!!」
 清継の興奮した問いにゆらは言葉なく頷く。
「じゃ、こいつは」
 札を貼付けられた人形が奇声を上げた。
「やっぱり妖怪なんだ!」
 カナが悲鳴を上げる横で島も怯えるように人形から離れる。
「ええ、ほんまに危ないとこでした」
 本物の陰陽師と妖怪。それを目の前に清継は自分の自論が間違っていなかったことを確信し、感動する。
 しかし陰陽師が何かを知らないリクオは彼女が妖怪を封じたことにただ驚いた。こっそりとつららに聞こうとするが、
「若、逃げましょう。一刻も早く」
 体も声も震わせ白い肌を青くして尋常じゃない怯えよう。
「私は京都で妖怪退治を生業とする花開院家の末裔」
「そう言えば花開院て、テレビで見たことあるような」
「それは祖父の花開院秀元ですね」
「そ、そんな有名人がなぜ!?」
 余所者にとってこの町は度々怪異に襲われることで有名だそうだ。たしかにそういった覚えは清継達も少なからず覚えがあるが、不思議なことに彼らのような地元の人間はまるで気にしていなかった。しかも妖怪の主が住んでいるとまで噂されているらしい。
 妖怪の主と聞いてリクオとつららは体を強張らせた。
「私は、一族に試験として遣わされたんです。より多くの妖怪を封じ、そして……陰陽師の頂点に立つ花開院家の頭首を継ぐんです」
 清継は本物のプロを目の前にもの凄く喜んでいる様子だが、実家が妖怪任侠を営んでいるリクオにすれば聞き捨てならない宣言である。
 しかも話していると清継の探し求める闇の支配者、つまりは妖怪の主。目的は違えど探し求める妖怪<ひと>は同じ、清継はゆらの手を取った。
「一緒に探そう! 妖怪の主を見つけ出そうじゃないか! 清十字怪奇探偵団ここに始動だ!!」
 あれだけ誤魔化すのに苦労したというのに、こうもあっさりと妖怪の存在がバレたうえ、ゆらという素材が清継をさらに活性かさせてしまったようだ。
 その時、封じられたはずの人形がカナに襲いかかった。
「滅!」
 ゆらがその一言を呟くと、今度は跡形もなく粉砕した。封じたはずなのにと険しげに人形が粉砕した場所を見ると、式神に混じって、レシートと割り引けの影ちらりと……。
「あ、ごめんなさい! お財布と一緒に入れてたから、レシートと一緒に式神飛ばしちゃったみたいで」
 意外と抜けているようだが、リクオに悩みの種が増えたことは確実である。


◆ ◇ ◆


 いつもの如く相談相手として話を聞いた瑞樹は呆れたようにため息を吐く。台所で雪女がどこか怯えた様子だったのに納得がいった。
「何を思って、日曜日にその陰陽師娘を含む清十字怪奇探偵団とやらがこの“本物”の妖怪屋敷に来ることになるんだ」
 あのあと、どこかでリクオの屋敷の噂を聞きつけた清継が奴良屋敷集合令を勝手に出してしまったのである。
「うぅ。やっぱりヤバいよね」
 自室の机に項垂れるリクオは改めて話したことで、家に陰陽師を客として迎えることの重大さを自覚する。
「しかしその娘<むすめ>、鈍そうだな」
 下に座布団を敷いて、壁に寄り掛かり瑞樹はぽつりと感想を述べた。
 当然だがリクオと雪女はすぐに人形の付喪神に気づいたのいうのに、ゆらは実際に襲いかかって来るまで気づかなかった。話に聞く限りでは、人に化けていた 雪女にも気づかなかったようだし、妖怪を滅する力は確かにあるようだが、気配には鈍いとみた。そうであるなら乗り切るのは簡単。
 さっきまで宴会していてリクオに怒られたばかりだというのに、相変わらず妖怪屋敷はザワザワと騒がしい。どうにかして日曜日まで静められないものかとリクオは頭を悩ませる。
「陰陽師の名を出せば簡単に静かになるだろ。……花開院か、この時期に来るなんてタイミングが良いのか、悪いのか」
「え? 時期?」
「いやコッチの話。……その娘が鈍いにしろ、この家に招くなら用心しな」
 花開院家は千年も続く現役の陰陽師一族。その娘が頭首を継ぐと宣言しているのなら花開院家本家の、しかも跡取りに近い立場の人間なのだろう。あそこは血 筋も大切にしているが何より実力主義だ。リクオと同じ年で一人でこの浮世絵町に遣わされたのなら、その娘の実力は確かということ。
「そんなにすごいの?」
「あとはせいぜい妖怪がいることがバレないことだな」
 日曜日なら仕事が休みで若菜の側につまりは奴良組にいるつもりだから、何かあれば手助けぐらいしてやろうと瑞樹は思った。


◆ ◇ ◆


 日曜日は隠れていろという命令には当然ながらブーイングの嵐。妖怪でありながら人間相手に身を隠さなければならないとなれば妖怪としてのプライドに傷か つくのは当たり前。けれど「陰陽師の末裔が来る」と一言言えば、それまでの抵抗が嘘のように素早く身を隠した。ちなみに雪女は朝から自室に引きこもってい る。
 助言したのは瑞樹だが、奴良組本家の妖怪がこれでいいのか。
 かくして、清十字怪奇探偵団による奴良組訪問が始まったのである。


 玄関の方から複数の気配。その中の一人は確かに他とは違う気配を潜ませていた。
「どうやら来たようだな」
「“人間の”お客様なんて久しぶりだからなんだか嬉しいわ」
 事情が事情なだけあってリクオが学校の友達などを呼んだことがないから尚更嬉しそうな若菜に、瑞樹もこれはこれでいいかもな、と思う。
「さて、若とお客人達にお茶持っていかないと」
 そう言って台所を出て行く毛倡妓。
「…………」
「どうしたの? 瑞樹ちゃん」
「……お前ら、リクオの客の話聞いたか?」
 周りでせっせと働く台所務めの妖怪達に声をかけると、互いに顔を見合わせたあと揃って瑞樹の方を向いて首を振った。
 今更だが奴良組に多くの妖怪達が暮らしている。隅々までに連絡網を行き渡らせようとしても、どこかで躓くことも良くある話だ。
「ちょっと行って来る」
「? いってらっしゃい」
 やれやれと、毛倡妓を追いかける瑞樹を若菜は笑顔で見送った。


 艶やかな波打つ黒髪を揺らして歩く女の肩を掴む。
「毛倡妓、ちょっと待て」
「瑞樹様?」
「茶は私が持っていく」
「あらそんな。瑞樹様にそんな雑用をさせるわけには」
「いいから。今日のリクオの客は陰陽師だぞ」
「へ?」
 やはり知らなかったらしい。毛倡妓は小さな悲鳴を上げて「よ、よろしくお願いします瑞樹様!」と言って台所に逃げ帰った。
 リクオと客人達は確かに大広間にいるはず。瑞樹は茶を乗せたおぼんを片手に向かった。


◆ ◇ ◆


 とりあえずここまでの道のりで妖怪達は影も形も見せなかった。しかしまだ長い奴良組訪問はまだ始まったばかり。
 予想以上の古屋敷に清継とゆら以外は風の音にも敏感に反応する。つい先日妖怪の存在が本当にあると知ったばかりで、クラスメイトが本当に妖怪が出そうな家に住んでいたことが少し驚きの様子。
 時折ゆらが天井や廊下の隅を見るたび、リクオは冷静ではいられない。
 さっそく清継の言葉を始めにゆらによる妖怪講座が始まる。


 “付喪神”
 “「器物百年を経て化して精霊を得て、より人の心を誑かす」この言葉の通り長い年月使われた器物は妖怪に変化すると古くから云われている”


 先日清継の家に現れたのがまさにこの付喪神。
 ゆらは、妖怪には様々な物がいることを話した、そしてとくに注意すべきは獣の妖怪という。
「やつらの多くは知性はあっても理性がない。非常に危険! 欲望のままに化かし、祟り、切り裂き! 喰らう! 決して触らぬようお気をつけ願いたい!!」
 陰陽師の言葉だからこそその力説に事実身があり、思わず誰もが頷いてしまうような迫力がある。
 確かにゆらの言うことは事実であるが、ここに瑞樹がいれば、その少々偏った物言いに眉を顰めたことだろう。
 話の内容が妖怪の主「ぬらりひょん」のことに移った時、リクオの心臓が大きく跳ねた。
 語っているうちにゆらの決意がますます固く、強くなっていくように口調がどんどんはっきりと強めになっていく。
 話が一段落ついて、タイミングを狙ったかのように襖が開かれ、全員がハッとなって振り返った。
「お茶持ってきたぞ」
 黒い長髪を一つに括った女の姿にリクオはほっと息を吐く。
「み」
「瑞樹さんッ!?」
 名前を呼ぼうとしたリクオを押し退け清継が目を輝かせて前に出る。
「は?」
 リクオは戸惑ったように清継と瑞樹を見た。
「……ああ、やっぱりお前か清継」
 清継と聞いてまさかとは思ったけど、と呟く瑞樹。
「え、ちょ、ちょっと待って! 清継君、瑞樹さんと知り合いだったの!?」
 二人の間に割り込んで、リクオが問うと清継は得意気に笑った。
「ふん! 知り合いも何も。この方こそ! 僕に妖怪についての知識を色々と授けてくださった恩師! 師匠の有沢瑞樹さんだ!!」
「師匠になった覚えはない」
 胸を張って言う清継に瑞樹が鋭くつっこむ。
 清継は「ん? そういう奴良君こそ瑞樹さんと知り合いなのかね?」と今更なことを聞く。それには瑞樹が答えた。
「リクオの母親とは親友で、その繋がりよくこの屋敷に出入りしてるんだ」
 そういえば小さい頃にリクオくんと一緒にいるこの人の姿を見たことがある、とカナは思い出した。
「そうだ! 瑞樹さんもぜひ妖怪について話してくれませんか! ゆら君、この方も君に負けず劣らず妖怪のことに詳しいんだよ。なんせ妖怪のことを調べる為に全国をまわったのだからね!!」
「全国!?」
 島が驚きの声を上げる。
 へぇ、とゆらは関心の眼差しを瑞樹に向けた。瑞樹も、これが噂の陰陽師、と目を向けたので二人の視線が合う。二人揃って無表情に見つめ合うのでなんだか周りの方が気まずくなっていく。
 カタンっと廊下側の襖の揺れる小さな音にゆらの視線が外れ向けられる。会話が気になって覗き見している奴らの気配に気づいていた瑞樹はさり気なくゆらの視線を遮った。
「悪いけど、遠慮しておく。お茶はここに置いとくからゆっくりしていきな」
 それぞれの客人の前にお茶を置く瑞樹に彼らは小さく礼を述べた。
 部屋を出る前、瑞樹はこっそりとリクオに耳打ちする。
「気をつけろリクオ。あの娘、すでに怪しんでる」
 いくら鈍いといっても大多数の妖気の固まりが集まった場所のど真ん中にいれば誰だってそのただならぬ気配に気づくことだろう。問題は気づく人間がどういう人間なのかが問題なのである。
 リクオの肩を慰める意味で叩いてから瑞樹は退室した。そして、部屋の外で覗き見していた妖怪達を散らす。


◆ ◇ ◆


 瑞樹が部屋を出たあとも、廊下が気になるのかゆらはじーっと襖を見つめており、リクオは冷や汗をかく。
「どうも、変ですねこの家」
「えっ!?」
 それだけ言うとゆらはリクオの制止の言葉も聞かず、ズカズカと反対の襖から縁側に出て行く。そのあとを慌てたように清十字団も続いた。
「どこ行くんだい花開院君!」
 部屋から出て来た客人達に妖怪達は慌てて身を隠す。
 実を言えばこの家に来たときからゆらはただならぬ妖気を感じていた。しかしもともと察知能力が鈍いうえに、あまりの多さに感覚がマヒしていて気のせいと 片付けてしまいそうになっていた。だが確かに感じた襖の向こうになにかがいる気配。それは瑞樹が部屋を出るとともに消えてしまったが、屋敷全体の気配が消 えたわけではない。ゆらは陰陽師としての直感に従って部屋を飛び出した。
 リクオはなんとかして部屋に戻そうとするが、ゆらの口から「妖気が」と聞いた清継は疑うような眼差しを向け「あとでじっくり話を聞かせてもらう」と凄ん だ。カナや島に止めてもらうことを期待しようとしても、彼女達もクラスメイトの屋敷には大変興味があるようで、ちっとも止めようとはしてくれない。
 ――み、瑞樹さん~!!
 リクオは最大の助っ人の名を心の中で叫んだが、その当人といえば……。


◆ ◇ ◆


「あ、瑞樹ちゃんお茶しましょう」
 若菜の誘いに一秒もおかず頷き、若菜と仲良く並んでおやつを食べていた。
「美味しいわね。あとでつららちゃんにも持っていきましょう」
「そうだな」
 陰陽師に怯えて仕事も休んで部屋に篭っている雪女を気づかう若菜に、瑞樹も相槌を打つ。




2011.11.02 明晰
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