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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第一夜 旧校舎の怪 <弐>



瑞樹が奴良組を訪れると、いつも家では和服なのにリクオは洋服を来ていた。もう夜だがどこか出かける予定でもあるのだろうか。
 ぬらりひょん、リクオ、若菜と同じ部屋で夕食の席に着いた瑞樹にリクオは旧校舎のことを訊いた。
「旧校舎? ああもちろん知ってるよ」
 瑞樹は妖怪や浮世絵町について沢山の知識を持っており、リクオはその知識を頼ったのだ。
「東央自動車道をつくる時、当初の予定では校舎一つと半分を潰さなきゃいけなかったんだ。まあ当然学校側は反対。一悶着起こして、その結果校舎一つ切り離すってことで妥協したんだ。建物を壊すのにも金が掛かるからそのまま放置したのがあの旧校舎」
 あの頃の新聞やテレビはしばらくそのことで持ち切りだった。道路の幅も当初の予定より縮まり細くなり片道車線となった。
「まあ怪談話は十年前から存在してたんだが、広まったのはわりと最近だな。ほら、朝鴉天狗が持ってた週刊誌、あれにも確か載っていたはずだ」
 図書館の書物は全て読み尽くしたという瑞樹は、あらゆる雑誌も欠かさずチェックしているらしい。


 “旧校舎の怪”
 “これは本当にあった話。――とある学校の敷地内あるのに誰にも行けない場所。そこでは夜な夜な死霊達が暴れていて、迷い込んでしまったら二度と帰って来れない。だから決して、近付いてはならない”


 これが一般的に広まった旧校舎の怪談である。
「二度と帰って来れないのに、話が広まったの?」
 不思議そうにリクオが首を傾げた。ありがちな言い分だが、瑞樹は答えた。
「ああいう隔離された空間っていうのは不思議と人惹き付け、話を生む。最初は誰かの作った話かもしれない。けど最近あの旧校舎で行方不明者が出ているのは本当だ」
「え!?」
「もともと不良の溜まり場でな、噂よりも人の出入りは激しいんだ。ニュースで取り上げられたわけでもないのに行方不明者が出た事実だけが流れて、肝試しをする奴らも増えてる」
 お膳の焼き魚の骨を取り、身をほぐす。リクオは何だか難しい顔で箸を降ろした。
「ってことは、本当に妖怪が出るのかな」
「本物は間違いなくいるな。……ところで、そんなことを聞くってことはまさか旧校舎に行く気か」
 瑞樹の鋭い目が光る。ぎくっと肩を強張らせたリクオはそっと瑞樹を見上げた。ぬらりひょんは面白そうに事の流れを眺めていた。
「あそこは危ない場所だ。妖怪や不良を抜きにしても、建物自体が長く放置されすぎて崩れかかってる。しかも夜に出歩くのはあまり感心しない」
 夜出かけること母は笑って許してくれたが、瑞樹はそうはいかない。少し厳しく言うのはリクオのことを思ってのことだと知っているから反抗意識は湧かないが、はい分りました、と引き下がるわけにもいかなかった。
「でも清継君達だけ行かせるわけにはいかないよ」
「言い出した本人が行って何かあったとしてもそれは自業自得。リクオが付き合ってわざわざ巻き込まれる必要はない」
「でも瑞樹さん、友達なんだよ?」
「だからといってお前が守る必要はないよ。友達付き合いは確かに大切かもしれないけど、お前に何かあるくらいなら私は……」
「まあまあ、いいじゃない瑞樹ちゃん」
「……若菜」
 瑞樹の肩に手を置き、隣に膝をついた若菜を振り返る。何もかも受け入れるような大らかな笑顔を見て瑞樹は口を噤んだ。
「リクオだってもう中学生なんだし、夜に友達と遊びに行くくらいかまわないわ」
「けど若菜……」
「瑞樹ちゃんはリクオのことになると過保護過ぎなのよ。リクオなら大丈夫」
 過保護過ぎるのは自覚している。生まれた時からずっと見守っている子だからか、若菜が大らか過ぎるからそうなってしまったのかもしれない。
 若菜に嗜められるように言われて、瑞樹の勢いはすっかり縮小してしまった。事の決着を感じたぬらりひょんは声を上げて笑った。
「ほっほっほ、どうやら今回は若菜さんの圧勝のようじゃな。ほれ、リクオそろそろ行かんと待ち合わせに間に合わんぞ」
「うん。ごちそうさま」
「はい、お粗末様」
 リクオのお膳はいつの間にか綺麗に食べ物が片付いていた。
「瑞樹さんゴメンなさい。心配してくれてありがとう」
「……気をつけてな」
「うん! それじゃ、行ってきます!」
 リクオが出て行くのを見届けた。やはり少し心配だが、雪女と青田坊が護衛について行っているはずだから大丈夫だろうと思う事にした。リクオの事で置いていたが瑞樹にはもう一つ気になることがあった。
「清継、ね……」
「ん?」
 若菜が可愛らしく首を傾げた。童顔だからか、とても中学生の子供がいるようには見えない。
「確かリクオが小学生の頃、妖怪を否定していた少年もそんな名前だったような……」
「そうなの?」
「それに……」
「それに?」
 思い起こして表情を微妙に顰めた。本当に微妙過ぎて、ぬらりひょんなどはよく目を凝らさないと気づけないが、長い付き合いの若菜は雰囲気でなんとなく感じとった。
「いや、なんでもない」
 そう言えば、深入りはせず、若菜はとくに気にした様子もない。
 今宵は弓張月。夜の闇は明るくもなければ暗くもないくらい、けれど宵闇に潜むものは活動を始める。


◆ ◇ ◆


 東央自動車道隣、浮世絵中学正門前。六人の少年少女が集まった。そのうちの何人かは制服を纏っており、浮世絵中学の生徒だということがわかる。どうやら彼らは忘れ物を取りに学校の前に集まったわけではないようだ。
「よし揃ったね。メンバーは……六人か」
「楽しみっすね清継くん!」
 彼らを集めたのはこの清継。
 この六人には清継から名誉隊員と指名されたリクオも含まれていた。
 ――瑞樹さんが言いたいこともわかってるんだ。本当は来ないこと方が一番安全だってことも。だけど、島君に記事を見せてもらった時、確かに嫌な予感がした。もし、ウチの組の奴らがいたら……、厳重に査定しなきゃ!
 三代目は継がないと言いながらしっかりと妖怪を監督するつもりでいるのは総大将の孫故か。
 ふと隣を見ると、私服姿で一瞬気づくのに遅れたが幼馴染みのカナがいることに驚いた。
「カナちゃん? なんで!? 怖がりなんじゃ……」
「う、うるさいな~。いいでしょ!」
 怖がりと認識していたはずの幼馴染みの少女の姿にリクオは意外な気持ちだった。
「リクオ君こそなんでよ?」
 問い返さ返答に窮する。
 そんな二人を背後に清継は見慣れない二人に気づいた。
「やあどうもありがとう、来てくれて。失礼だが、お名前は?」
「及川氷麗です! こういうの、超好きなの!」
 応じた少女はなかなかの美少女。肌は透き通るように白く、瞳は大きくクリッとしていて、長い黒髪は艶やか。はたしてこんな生徒うちにいただろうかと一瞬疑問に思うも、妖怪以外あまり興味のない清継は制服を来ているし別クラスの子なんだろと結論づけた。
「歓迎するよ!」
「俺も好きなんだ。倉田だ」
「そ、そうすか」
 中学生とは思えない厳つい体格に仏頂面の巨漢に島は怯えたように振る舞う。
 リクオはただ「物好きもいたもんだ」と思っていた。清継等はともかく、毎日妖怪といやでも顔を合わせているリクオからすれば、何故わざわざ危ないことをしてまで妖怪に会いに行かなければならないのか理解出来なかった。
 清継の言う計画では東央自動車道を横断して行くそうだ。そのためにわざわざ車の少ない時間帯を狙ったとのこと。リクオは不安を感じていた。
 ――これって、悪行じゃないよね?
 微妙な感じはするがついて行くしかない。
 近くで見ると旧校舎の廃れ具合よくわかる。瑞樹の言っていた通り、あちこち窓ガラスが割れていたりドアや壁に大きな亀裂が入っていた。吹き抜ける風の音が鳴き声のように耳に響く。おどろおどろしい姿にカナは無意識に近くにいたリクオにすり寄った。
 ドアの前の清継と及川だけがこの雰囲気を楽しんでいた。
 古い建物だから床は木製で、ところどころ穴が空いていた。闇に消える廊下の先から、ピチョンピチョン、と微かな水音が聞こえる。誰もが口を閉ざした。三つの懐中電灯のうち二つを島とリクオに渡すと、清継は懐中電灯のスイッチを入れ、先頭に立った。
「とにかく事細かに調査だ。ここに妖怪がいるなら、あの人に通ずる何かがきっとあるはずさ!」
 カナは怖いのか、列の最後尾を歩くリクオの背中に貼り付いていた。歩きにくいだろうにリクオは何も言わない。
「まずはこの部屋をチェックしよう」
 清継一行が最初に足を踏み入れたのは、美術準備室。かつての生徒が描いたであろう絵が壁に何枚か貼られていたが破れたり擦れていたりして壁の模様と化していた。棚の上から頭だけの像がリクオ達を見下ろす。
 誰かが歩くたび床がギシギシと鳴る。一人で行動するつもりでいたリクオは困ったように背中にくっつくカナを見た。
 ――こんな状態じゃ、もし妖怪と出くわしたら……。バレずにどうやってやり過ごせば。
 何気なく棚の影を覗き込むと、異常なほど青白い顔をしたおかっぱの少女が体育座りしていた。少女とリクオの視線が合う。が、リクオは何事もなかったかのよう移動しようとした。
「あ、今私の……」
 少女が声を発した瞬間横の棚がもの凄い勢いで少女を潰した。リクオが咄嗟に隣の棚を動かしたのだ。
 棚に押しつぶされたはずの少女が苦しそうに声を上げるが無視する。
 ――いた。普通にいた。瑞樹さんの言った通りだ。
 リクオの背に隠れていたカナは気づかなかったようだが、今のは間違いなく妖怪。屋敷ほどでないにしろ予想以上の多さに肩が重くなる。しかも見た所どうやら奴良組のモノではないようだ。これでは従わせることは出来ない。
 ここにはいないようだ、と言って清継一行は移動する。
 廊下の天井の不自然な足跡、駆け回る足音、階段に生える手の群れ。はっきりと感じる無数の気配。
 立ち並ぶ難題にリクオは焦りを覚えた。
 一行が次に何気なく立ち寄ったのは給湯室。昔から水回りには妖怪が現れ易いという。島が緊張した手でドアに手を伸ばす。
 その時リクオは、ドアの向こうから不穏な気配を感じた。
「ダメぇーーー!!」
 驚いた島は慌ててドアから離れた。急な大声の主がドアの前に立ち塞がったリクオの物だと気づくと、脅かせるなよ、と文句を呟く。
「ご、ごめん。いやー、なんか喉が渇いて……」
 いやここの水は飲まない方がいいと思うが、と清継が言ったがリクオの耳に届いたのはドアの向こうのヒソヒソ声の方。
「チィ……。ノド……渇いたのに……。血ぃ、めっちゃ飲みたいのに……」
 声の主が入り口に手をかけた瞬間は後ろ手でドアを閉めた。挟まれた指が何本か潰れたようだか気にしない。妖怪ならこれくらい何ともないだろ。
 問題がもう一つ増えてしまった。ここには人を驚かして喜ぶような小妖怪だけでなく、危険な物も何体か混じっているようだ。
 危険だ。リクオならともかく、例えばもし今のドアを島が開けていたら……。考えるだけでもゾッとする。
 リクオは先に進もうとする清継を押し退け、先導役を買って出た。
 トイレから現れる妖怪、足元をうろつく妖怪、飛びかかって来た妖怪。
 清継達には気づかれないように行く先現れる小妖怪達を殴ったり蹴ったりで退ける。予想以上の妖怪の量はキリがなく、リクオは額にかいた汗を袖で拭った。
 はたから見ればテンション上げて一人で興奮で騒いでいるように見えた。異常に張り切っているように見えるリクオの様子を清継達は不思議に思った。
 ただ及川と倉田だけは清継達とは違った様子でリクオを見ていたが、彼は気づかなかった。
 一通り見回った所で、始めた時よりも清継のテンションは下がっていた。期待していたのに妖怪らしいものを全く見かけることすらないのだから当然だろう。旧校舎の深部の食堂、今日のところはここで終わりにしよう、と清継は言った。
 ほっ、としてリクオが一瞬気を緩めた間に清継達が部屋に入って行く。リクオも後ろから入りかかった瞬間、今までにない悪寒が背筋を走った。
 ――やばい! これはっ?!
 部屋の隅でペチャクチャと物音が聞こえる。清継と島は懐中電灯で物音の方を照らした。
 複数の人影。何かを囲って屈み込んでいる。腐臭が鼻をつき、清継達は思わず顔を顰めた。臭いの元、それは囲まれているソレで。よくよく見ればソレは、腐りかけた野良犬の死体。囲む人影は犬の死体から肉を剥いで喰っていた。
 人影が清継達に気づいて振り返る。
 頬まで口が裂けた女、異形の形相の生物、顔はカマキリの男。ソレ等は硬直した清継達を見て、ニタリッと笑った。新たな獲物を歓迎する笑い。
 犬の死体を喰い飽きたソレ等は喜々した様子で大口開けて襲いかかって来た。
「う、うわぁあああああああ!!」
「出たぁあああああああああ!!」
「え!?な、なに!?」
 後ろに控えていたカナは部屋の中の様子に気づかなかった。清継と島の叫びに驚いて恐怖のあまりカナは強く瞑った。
「リ、リクオくん!?」
 あれほど会いたがっていたというのに、いざ襲われると恐怖が勝り、清継と島は一足先に逃げだした。
 リクオはその場を動かず立ち塞がる形で襲いかかる妖怪達と向き合った。背中に貼り付くカナを外したいところだが、状況理解が出来てないせいもあって強くリクオにしがみついている。
 身の安全のためにもここで足止めしなければならない。だが正直言って、彼らを守りながら妖怪達を退けるのは難しいこと。しかも武器もない。さっきまでの小物達と同じように殴って蹴ってで済むような相手ではない。
 このままでは……。
 間に合わないと焦りを感じた時、リクオの横を冷気がすり抜けた。
「リクオ様、だから言ったでしょ?」
「え」
 巨体が前に現れ、リクオに襲いかかった敵に拳を振り下ろす。白い着物の少女が吹いた冷気が相手を氷付けにする。
 リクオの側近、青田坊と雪女。タイミングを狙ったかのような登場にリクオは目を見開いた。
「こーやって若けぇ奴らが、奴良組のシマを好き勝手荒らしてんですよ」
 青田坊がドンっと胸を張って構えた。
「うせな。ここはてめぇらのシマじゃなねえぞ、ガキども」
 妖怪社会にも組織というものは存在する。だいたいの妖怪は何かの組織に属している事が多いが、こいつ等のように無所属の妖怪も少なくはない。彼らが今行っているのは、人間でいうなら一般人がヤクザに喧嘩を吹っ掛けたようなもの。下手をすれば厳罰物だ。
 奴良組と聞いてリクオに襲いかかった妖怪達はあっという間に逃げ去った。奴良組はこのあたりを中心に関東妖怪の元締。その名を聞いて歯向う愚か者は少な い。しかし奴良組の懐とも言える浮世絵町の縄張りで、こうも若い妖怪達が好き勝手しているのは、奴良組衰退の噂が流れているせいだろ。
 だからこそ彼ら側近達はリクオに早く三代目を継いで貰いたいのだ。
「若。しっかりしてくだせぇ。あなた様にゃ、やっぱり三代目を継いでもらわんと!」
 今一番聞きたいのは聞き慣れたその言葉ではない。
 先程まで彼らは及川と倉田という“人間”だったはず。リクオは状況説明を求めた。
「何! どういうこと!?」
「だから“護衛”ですよ。確か鴉天狗が言ってたはずですけど。四年前のあの日、これからは必ず御供をつけるって! 知らなかったんですか? ず~っと側にいたんですよ!」
 こういう顔が見たかったからワザと言わなかった。再び人間に化けた二人は作戦成功とでもいうように笑っていた。
「聞いてない! 聞いてないよ!」
「いいえ、確かに言いました」
 ぎょっと窓の外を見ると鴉天狗が飛んでいた。
 ほらあの時、と言われ記憶を遡る。確かに言われたような気もしなくはない。
「まったく心配になって来てみれば、あんな現代妖怪<わかぞう>共に。妖怪の主となるべきお方が、情けのうございます」
 じ~っと淡々とした口調でリクオを注視する。
「だから僕は人間なの!」
「まだおっしゃいますか!!」
「僕は平和に暮らしたいんだぁー!!」
 リクオの叫びが空しく旧校舎に響く。
 ここで存在を忘れていたが、リクオの背中にはり付いていたカナははり付いたまま。逃げだした清継と島は廊下まで逃げた所で情けなくも気絶していた。幸いなことは、怖さのあまり耳も塞いでいたためにカナが今の会話を聞いていなかった事だろ。


◆ ◇ ◆


 月が雲に隠れたが、道路を照らすライトのおかげで大して暗くはない。
 東央自動車道の塀の上から旧校舎から出て来たリクオ達を見下ろす影があった。
「あれが、奴良リクオ……」
「どんな奴かと思えば、ただのガキじゃねえか」
 二人の若い男の声だった。
 片方が忌々しげ舌打ちすると、片方は視線を下げた。
「一度、覚醒したと聞いたが……」
 語尾に間を置く特徴的な喋り方をする男は、リクオを睨みつけて暴言を吐く男と違って少なからず何か期待していたようだが、外れた事にため息を吐いた。
 雲が晴れ月が現れると同時に二人の男はまるで風のように姿を消した。


◆ ◇ ◆


 家に帰るとリクオは古いアルバムを漁った。
 四年前から今までの写真。小学生の時の修学旅行、運動会、社会見学……。どれにもこれにもよくよく見れば人に化けた青田坊と雪女の姿が一緒に写っていた。
「なんだ。あいつ等バラしたのか」
「瑞樹さんも知ってて黙ってたね」
 歯軋りして睨み上げると瑞樹は肩をすくめて応じた。
 護衛の件に関しては瑞樹は賛成派だったが、別に隠していたつもりはない。ただわざわざ言う必要もないと思った。
 リクオは大層不満のようだが、やはり護衛があって良かった。
「実際、今日は雪女達のおかげで助かったんだろ」
「うっ。確かに、そうだけど……」
 だけどだけど、と呟く。諦めが悪い。
「そろそろ寝たらどうだ。明日も学校だろ」
 もう夜も遅い。
「あ、うん。瑞樹さん今日も泊まるんだよね」
「いや。これから帰る」
「え、これから? もう夜も遅いのに」
 驚いて机の上の時計を見ると、11時と表示されていた。瑞樹のマンションはここから駅をさらに超えた所にあるので、彼女が帰宅する頃には12時を超えるだろ。
「明日は朝から書庫の整理が入ってるんだ。……明日は泊まる予定だけど」
 瑞樹の勤務する浮世絵中央図書館はここからより自宅からの方が近い。
 家に帰る瑞樹を玄関から見送って、リクオは不思議な気分になった。奴良組が家にいることが多くてついうっかりしてしまうが、瑞樹の自宅は別にあるのだ。それが当たり前の事なのに、リクオは瑞樹がいない家に違和感を覚えた。




<第一夜 旧校舎の怪>終
2011.10.21 明晰
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