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夢想庫

気まぐれ書き綴る夢小説もどきの置き場

   

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第零夜 総大将の血 <弐>



リクオが去ってからも、しばらく庭に立ち空を見続ける背中に話しかける。
「なんだか気に入らなさそうじゃのう」
 表情を見たわけでもないのに瑞樹の微妙な機嫌の悪さを言い当てた。例え表情が見えたとしても、感情を表し難い表情<かお>では瑞樹の心情を読み取ることはかなり難しい。
 瑞樹が振り返れば、反対に随分と機嫌の良さそうなぬらりひょんが笑っていた。
「リクオはしっかりアイツの血を引いてた」
「そりゃそうじゃろ。わしの孫なんじゃから」
「……後ろ姿がムカツクぐらい似てた」
「どちらかといえば若い頃のわしの方によく似ていたと思うがな」
「じいさんの若い頃なんて知らん」
 一体何百年前の話だ。だがその話が本当ならぬらりひょんの遺伝子はかなり強力なのだろ。
 人間の時は母親似で妖怪の時は父親似だなんて反則だ、とガラにもなく思った。大嫌いな男によく似たリクオの姿を思い浮かべ、複雑な気持ちを吐きだすようにため息が出た。


◆ ◇ ◆


 総大将になることを目指し、毎日側近達を相手にイタズラを繰り返していたやんちゃな少年。何よりも祖父を尊敬し、いつか自分が三代目となって祖父のよう な立派な妖怪になるのだと信じて疑わなかった。若菜も瑞樹も、リクオが目指す道に口を出す気はまったくなかった。あの子が本気でそう願っているなら、保護 者として支えるだけだと。しかし、ある日少年はその夢を翻した。理由はクラスメイトの少年が「妖怪は悪者だ!」と言い、妖怪をカッコイイものだというリク オの主張を否定したことらしい。さらにその少年が言った「妖怪は存在しない」とい主張が大きなダメージを与えたようだ。
 人間側にとって妖怪とは決して良いモノではない。リクオは幼い頃から妖怪と共に過ごしていたためにそういった考えがなかったが、人間社会で過ごしていればいつかは知ることだ。
 自分の尊敬する祖父が、人の家に勝手に上がって無断で飲み食いするうえ、人の嫌がることをして困らせる小悪党な妖怪と言われる存在だと知ったリクオは裏 切られたような心情だったのだろう。さらに追い打ちのようにその日行われた総会で、とある妖怪がリクオの前で子供を攫って地獄送りにしたなどと言ったため リクオの妖怪に対する認識は、百八十度変わった。あれほど目指していた三代目襲名を拒み、リクオは総会を飛び出した。そして朝まで親しくしていた側近達す ら拒む様子に、何より戸惑ったのはその側近達だ。
 自室で項垂れるリクオと、それを部屋の外からこっそり様子を窺おうとする妖怪達を見兼ねて、瑞樹はリクオのもとに向かった。
「どうしたリクオ?」
「瑞樹さん……」
 リクオは母の親友である瑞樹に絶対的な信頼のようなものを寄せている。時々側近達ですら嫉妬するほど瑞樹に懐いているリクオは、その時も泣きつくように瑞樹に抱きついて瑞樹の腹に顔を埋めた。
 それを黙って受け入れ、背中を撫でて宥めようとする。
「僕……僕、妖怪があんなに悪い奴らだったなんて知らなかった!」
「…………」
「友達が、ぬらりひょんの孫の僕も悪いヤツだって! うそつきって!」
「…………」
「僕……、三代目になんかなりたくない!!」
 落ち着くまで思う存分吐き出させる。今のリクオにはこれが一番の対応だろ。リクオの叫びは外の側近達にも届き、皆、突然の三代目襲名拒否発言に驚いているようだ。
 感情を表にうまく出せない瑞樹は無表情でその小さな背中を撫で続けた。心の中では人間と妖怪との関係を知ってしまったことへの同情と、きっかけとなったクラスメイトへの怒りが渦巻いている。
「これから、どうすればいいんだろ……」
「……思うようにすればいい」
 ぽつりと呟かれた言葉にリクオは腹に埋めていた顔を上げた。無表情けれどその瞳の奥に慈愛の優しさを見て、リクオは耳を傾ける。
「お前が三代目を継ぎたくないというなら、継がなければいい。もし、周りが無理矢理にでもお前を三代目にさせようとしても、私と若菜が全力でお前を守って やる。私達はいつだってお前の味方だ。……けれどリクオ、忘れるな。お前のことを思うのは私達だけじゃない。外で様子を窺っている奴らも、みんなお前のこ とを思って心配しているんだ。お前の友達は妖怪を悪者だと言ったかもしれないが、お前の知る、世話をしてくれる周りの者達は本当に悪者だと思うか? 本気 でそう思っていないなら、嫌ってやるな」
 珍しいリクオと若菜以外の者を庇う言葉に、外で聞き耳を立てていた者達はしばし感激に浸っていた。戸惑い悩む姿に優しく言葉をふりかける。
「今は焦らなくていい。明日、もう少し落ち着いてよく考えな」
「……うん」


◆ ◇ ◆


 事故現場では瓦礫に埋もれたトンネルを見て、中にいる我が子を思って泣く親達が立ち塞がる警察を押しのけようとしていた。
「下がってください! 二次被害が起きるおそれがあります!!」
 救助隊はまだか!と誰かが声を上げる。親達は子供の名前を叫びながら、起こるはずのない事故に現実として受け入れられずにいた。
「おかしいわよ……こんなところ、崩れはずないわ! 何かの間違いよー!!」
 まだ来ない救助隊に苛立ちを覚えた親達は警察に掴み掛かる。その時、何人かが瓦礫を見て何かに気づく。
「ママ、あれ……」
 一人の子供が指差した先に、鬼や体のついた納豆がせっせと石を退かしている。それを視界に留めた者達はありえないものを見るかのような目をそれらに向けた。
 彼らが唖然としている間にも妖怪達はせっせと岩の間に通り道を作っていた。


◆ ◇ ◆


 トンネルの中では横転したバスの横で、なんとか這い出た子供達が泣いていた。幸いなことに、一人が懐中電灯を持っていたためトンネルの中は完全な暗闇ではない。泣き出す下級生を家長カナ等<ら>が宥めていると、懐中電灯の光りが届かない暗闇の中で何かが蠢いた。
「きゃっ!?」
 小さな悲鳴に清継はビクッと肩が跳ねた。
「い、家長くん?ビックリしたじゃないか」
「だ、だって……そこに、人が並んでたから……」
「人?」
 カナの視線の先に懐中電灯を照らすと、背の高い人影がずらりと並ぶ。
 浮世絵小学校から出発したバスには、小学生以外の乗客はいなかった。しかしその人影は小学生にしては身長が高過ぎる。
 脳裏にバスが事故に遭う前のことが過<よぎ>った。
 妖怪はいないと明言する清継の背後の窓に、黒い影のようなものが映り、そして――バスは土砂崩れに巻き込まれた。
 今思えば、影は人の形にも見えた気がする。
 清継は並ぶ影に違和感を覚えた。どれも似たような格好で頭から布を被っている。目は虚ろで口元はつり上がりのぞく牙が光に反射して鋭く輝く。お世辞にもその顔は人の物とは思えなかった。
「き、清継君。あれ、何……?」
 影の一人が舌打ちする。
「なんだ、結構生き残ってんじゃねえか」
 物騒な響きに本能から怯える。
「ど、どちら様ですかぁーーー!?」
 引きつった声が語尾で震えながら上擦り、予想以上にトンネル内に反響する。恐れの含まれたそれに影の一人が嬉しそうに、にやり、と笑う。
「あんまりトンネルが壊れなかったようだな……。とにかく、ここにいる全員『皆殺し』じゃ。――若もろともな」
 ガガガと壊れたカセットテープの雑音のような笑い声を発しながら、影は子供達に近づく。本格的に身の危険を感じ、思わず叫んだ。
「よ、妖怪っ!!?」
 子供達は逃げる。しかし閉じたトンネルの中では逃げ場はない、すぐに追いつかれてしまう。恐怖の叫びを最高のスパイスとでもいうように妖怪達は大きく口を開ける。喰らうために、だ。
「うわぁああああああ!!?」
 突然トンネルが崩れ、子供達と妖怪との間に崩れた瓦礫が落ちて壁を作った。切れ目から流れ込むように妖怪達が入ってくる。子供達はまた増えたと恐れ隅で縮み込む。それは影の妖怪達にも予想外の出来事だったようで驚いた様子で飛び込んできた妖怪達を見る。
「おほ……、見つけましたぜ若ぁ! 生きてるみたいですぜー!!」
 体格の大きな妖怪が瓦礫を踏みつけて覗き込んだトンネル内を見て、主である少年を振り返る。
 少年は飛ぶ妖怪の上に乗って空から見下ろす。
「ガゴゼ。貴様……なぜそこにいる?」
 ガゴゼは幹部に名を連ねる妖怪だ。“若が乗るはずだった”バスが巻き込まれた“偶然”起きた事故現場に誰よりも先にいて、今にも若の学友である子供達を襲おうとしている様子からリクオの百鬼のほとんどは即座に事の真相を理解した。
「ガ、ガゴゼ様……」
 ガゴゼの手下は本家に見つかったことに怯えたように己の主<ぬし>の様子を窺う。
「本家の奴らめ……」
 忌々しげに呟く。
 子供達はどんどん増えていく妖怪達に怯え、清継などはあれほどさんざんに否定してきた存在を目の前にして「これは何かの間違いだー!!」と泣き叫ぶ。
 リクオの百鬼達は泣き騒ぐカナ達を宥めようするが、人には恐ろしい形相のせいで逆効果。地に降りたリクオが見かねて止める。
「やめろ。おめーは顔コエーんだから」
「ヘ、ヘイ若」
 はっきり言われ少し落ち込んだ様子。
 カナ達を見て、擦り傷だらけではあるものの大きな怪我を負った様子がないことにリクオは心底安心した。
「よかった無事で……。カナちゃん、怖いから目瞑ってな」
「誰……?」
 それだけ言うと背を向けてガゴゼと向かい合う。見知らぬはずの少年が自分の名前を知っていたことにカナは驚いた。あまりにも姿の違うため彼女達は百鬼を引き連れたその少年がリクオであることに気づかなかった。変化を見ていないガゴゼも同然。
 木魚達磨はガゴゼに対してきつく問い質す。
「……これはこれは木魚達磨殿」
「しらばっくれるな! 貴様、何をしたのかわかっておるのか!!」
「はて? 私はただ……、人間のガキ共を襲っていた……、それだけだが?」
 その言葉が真意ではないことは明らか。ガゴゼは古くから幹部に席を置く存在。かつては共に戦ったこともある。それだけに、木魚達磨の受けた衝撃は大きかった。
「何の問題もないだろ……? 木魚達磨殿」
「が、ガゴゼ……」
「子供を殺して大物ヅラか。オレを抹殺し、三代目を我がモノにしようとしたんなら……。ガゴゼよ。てめえは本当に、小せぇ妖怪だぜ」
「なんだぁ~、貴様は!!」
 ガゴゼの手下が見慣れぬ子供に掴み掛かると木魚達磨が慌てる。リクオの襟を掴んだかのように見えた薄汚れた手は、掴む寸前で赤い糸によって止められていた。
「リクオ様には一歩も近付かせん。ガゴゼ組の死屍妖怪どもよ」


◆ ◇ ◆


「妖怪ガゴゼ。生前悪さを働いた男が、埋葬された寺で死してなお、夜に妖かしとなって子供を襲っては喰らったという妖怪」
「さすがじゃ瑞樹嬢ちゃん。奴良組に関係する妖怪のことを全て調べ尽くしておるだけはある。現場に行ったわけでもないのに犯人を言い当てるとは」
「そういうじいさんこそ、分っていたんじゃないか」
 すっかり空になった本家はどこか寂しげで、若菜はお茶を持ってくると瑞樹の向かいに腰を下ろしてコタツに入った。
「最近、幹部の中でリクオに対する評判が悪くなっていたことは明らかだった。まあ、人間の血を色濃く受け継いでいるリクオを、いくら総大将の直系だからといって三代目を襲名させようだなんて、反対意見がない方がおかしいものさ」
 よほどリクオを三代目にしたいらしいぬらりひょんは、眉間に皺を寄せ茶を啜った。若菜は幹部でリクオの評判が悪いと聞いて悲しそうな表情を浮かべたが、総大将にはならない宣言には笑って「そう」と受け入れていた。
「特にガゴゼは、自分が三代目になるためにリクオを邪魔に思っていたようだし。最近の神隠しがあいつの仕業であることはわかっていたからな」
 そこまで気づいていて事件を解決しようとしなかったのは瑞樹が他人に興味がないからだけではなく、単に奴良組に関係する妖怪に関しては個人的判断で行動を起こさない、とぬらりひょんとの間で約束をしていたからだ。
 リクオは教えられるまで気づかなかったが、妖怪の中には当然人を喰らうモノもいる。世の中は弱肉強食。それは真理の一つだ。生きるためにも食は必要な物、それをするなという方が残酷だろう。
 ただ人間を食べなければ生きていけないわけでもないのに、襲い過ぎは如何なものかとは思うが。
「気づいてたならもっと早く止めれば良かったんだ。そうすればに総大将の言葉を無視してまでこんな無茶な計画を立てなかっただろうに」
 まずバスにリクオが乗っているか確かめもせず実行した時点で失敗している。嫌味も込めて言うとぬらりひょんは皮肉な笑みを浮かべた。
「わしらは善人じゃない。妖怪じゃ。リクオのように人間のためになどという理由で動いたりはせん」
 それでも彼が人に関わるのは人間の妻を娶ったからだろう。瑞樹も若菜も生まれる何百前のこと、彼女のことをぬらりひょんは桜のように美しい女性<ひと>だったと言う。
 若菜がぬらりひょんの空になった湯のみを見て、急須を手に取って注いだ。


◆ ◇ ◆


 絡新婦<じょろうぐも>の糸と毛倡妓<けじょうろう>の髪をよって合わせたという特性の糸を首無は巧みに操り、歯向おうとした妖怪を容赦なく絞め殺す。
 ガゴゼ達はその時初めてその、若き日のぬらりひょんを思わせるような少年が彼らが命を狙っていたリクオ本人であることに気づいた。妖怪化したその姿にガゴゼは焦りを覚える。
「くそっ! 殺せ! この場で若を殺せ! ぬるま湯にそまった本家のクソどももろとも、全滅させてしまえ!!」
 主の言葉を引き金に手下共はリクオ達に襲いかかった。リクオの後ろから青田坊、黒田坊の二人が前に出て迎え撃つ。
「力仕事は……」
 青田坊に振り落とされた木刀は丈夫さで負けて折れ、青田坊は片腕で捩じ伏せた。
「突撃隊長、青田坊にまかせてもらおーか!!」
「貴様一人ではないぞ! 突撃隊長はーっ!!」
 常に競い合っている黒田坊がすかさずツッコミを入れる。
 本家の妖怪達とガゴゼ達の圧倒的な差。戦局はあっという間にリクオ達の有利に展開する。それを信じられない思いでガゴゼは愕然と立ち尽くした。先程までの余裕はもうどこかに消え去り、今までの自分の功績を風化させるような現実に拳を握る。
「そんなバカな……。私の組が……、誰よりも殺してきた最強軍団なのに……」
 人も殺さず、子供に交じって平穏な生活をしている本家の妖怪共を超えるような悪事を繰り返したというのに。何故、落ちぶれたはずの本家の妖怪共に手も足も出ないのだ。
「ガゴゼ、妖怪の主になろうってもんが、人間いくら殺したからって……自慢になんのかい」
 リクオの側近達の見下すような視線。実力で彼らに適わないことをガゴゼはとっくに悟っていた。
 計画では若を殺し、自分が三代目になるはずだったのに。追いつめられた状況にガゴゼは焦り、なんとかしてこの場を逃れる策を探す。
「あきらめろ。この企み……指をつめどころじゃ許されねえぜ」
 あきらめてたまるか。意地が悪いのもまたガゴゼの性質。
 ふと視界に、隅で縮こまる子供の姿が入る。瞬間、この場を逃れる策を思いつく。ガゴゼは子供達に飛びかかった。
「何!?」
「フハハハ! ざまぁ見ろ! こいつらは若の友人だろ!殺されたくなければ大人しく俺を……」
 子供達の悲鳴が響く。
 瞬間。
 ガゴゼの顔面に刃が切り込まれた。いつの間に動いたのか、傍観していたリクオが護身刀を抜いてガゴゼに切り掛かっていた。
「若!?」
 今まで実戦に参加したことのない若の突然の行動に本家の妖怪達は驚愕する。
 たった一太刀浴びただけなのに尋常じゃない痛みにガゴゼは呻く。リクオの護身刀はただの刀ではない。妖怪を倒すために作られた妖刀袮々切丸。ぬらりひょんが次期三代目候補としてリクオに譲った最初の品である。妖怪ならば一太刀浴びただけでも命に関わる恐ろしい刀。
「なんで……貴様のようなガキに。ワシの、ワシのどこがダメなんだ!!」
 顔面の真ん中に入った赤い筋が、まるで感情までも二つに分けたかのように、痛い痛いと言いながら片や不満を嘆く。
「妖怪の誰よりも、恐れられているというのに!!」
「子供を貪り喰う妖怪……。そらあ“おそろしい”さ。……だけどな、弱えもん殺して悦にひたってる、そんな妖怪が。この闇の世界で一番の“おそれ”になれるはずがねぇ」
 まるで妖刀のように鋭い眼光がガゴゼを射抜く。その時ガゴゼはリクオを“おそれ”た。思わず後ずされば、リクオが一歩前に出る。
「情けねぇ……。こんなばっかかオレの下僕<しもべ>の妖怪共は! だったら! オレが三代目を継いでやらあ! 人にあだなすような奴ぁ、オレが絶対ゆるさねえ!!」
 その言明に誰もが目を見開いた。
 小さいはずのその体に大きな何かを感じ、種類は違えもその場にいた全員がリクオに“おそれ”を抱いた。
「世の妖怪共に告げろ! オレが、魑魅魍魎の主となる!!」
 ガゴゼは逃げようとした。しかしそれは許されず、リクオは寧々切丸を振り下ろす。
「全ての妖怪はオレの後ろで百鬼夜行の群れとなれ!!」
 真っ二つに切られ、ガゴゼはあっけなく散った。
 感じたのは感激だったか、恐れだったか。恐怖、圧倒、あるいは歓喜。皆、心の底から湧き上がる何かに震えた。
(「畏」。その文字は、普通ではない者、「鬼」が「卜<ムチ>」を持つという意味の字。それはすなわち未知なるものへの“感情”、「妖怪」そのものを表 す。ガゴゼのような悪行も「恐れ」。巨大なモノに対するおそれ。脅迫に対するおそれ。支配に怯えるのもおそれ。だが、それは妖怪の一面に過ぎない)
「すげぇ……、あんな小さいのに……」
「カッコイイ……」
「妖怪って本当にいたんだ……。あんなスゴイんだ……」
 さっきまでの恐れを忘れて子供達は皆リクオに畏を感じた。
 木魚達磨は感極まり、体が震えるのを止められなかった。
「この達磨、知っていながら今気づいた」
 闇の主とは、人々に畏敬の念さえも抱かせる、真の畏れを纏う者であると。
 まさか、それを改めて実感させたのがまだ幼い子供だとは。ひょっとしたらリクオは木魚達磨達が思う以上の逸材なのかもしれない。
 しかし、急にリクオが倒れた。唖然と木魚達磨は呼びかける。
 側近達は慌てて駆け寄った。
 意識がない。どうやら気を失っているようだ。
「まさか、やられたのか!?」
「若ー!!」
 髪が縮み、色も変わる。変化が少しずつ解かれていた。木魚達磨は成り行きを見て呟く。
「人間に、戻っている……?」
 新たな事実に一つの仮定が生まれた。
「まさか。四分の一、血を継いでいるからって、一日の四分の一しか、妖怪でいられないとか?」
 沈黙。
 妖怪達は互いに顔を見合わせ、そして。
「えぇええええええ! なんですってーーーーー!?」
「そ、それって!!?」
「どーなるのぉーーーーーーー!?」



「若ぁああああああああああああああ!!!!!?」
 明けた空に妖怪達の叫びが木霊する。




2011.10.08 明晰
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